佐賀市私立保育園会 園長研修会にて水害対策講座「西日本豪雨経験から伝える 保育園の水害対策」を実施

2026年3月19日(木)、佐賀市にて佐賀市私立保育園会の園長研修会として、保育園の水害対策に特化した防災講座を実施させていただきました。

目次

イベント概要

項目詳細
講座名西日本豪雨経験から伝える 保育園の水害対策
開催日2026年3月19日(木) 10:00〜13:00
会場佐賀市内
対象佐賀市私立保育園会所属の園長

講座内容

本講座では、「園児はもちろん職員の命も守ること」を最も大切なメッセージとして掲げ、西日本豪雨で緊急援助隊として活動した経験をもとに、保育園の水害対策について「避難訓練」「備蓄」「マニュアル」「保護者対応」の4つの柱でお伝えしました。

1. 西日本豪雨から学ぶ水害リスク

2018年7月の西日本豪雨災害の概要を共有し、倉敷市真備町の被害状況をもとに解説しました。

特に今回注目していただいたのは、真備町(岡山)と佐賀平野の地形的な類似性です。
どちらも「水が溜まる構造」「バックウォーター」「内水氾濫」「浸水の長期化」という4つの共通リスクを持っています。真備町は低平な盆地で川に囲まれた地形、佐賀平野は海抜5m以下の干拓地。構造が似ているからこそ、同じような被害が起こりうることをお伝えしました。

「災害が少ないから備えないでいいではない。災害が少ないからこそ備えが重要」であり、行政・消防が災害対応に慣れていない地域だからこそ自園で子どもと自分を守る準備が必要であることを強調しました。

2. 水害を想定した避難訓練

地震訓練と水害訓練はまったく違うということをお伝えしました。
水害は反射的な避難行動より「判断・決断」が重要になります。

まず今行っている訓練を意味あるものにする基本訓練から始め、段階的にレベルを上げていくアプローチをご提案しました。

形式的な訓練で終わらない次のステップとして、想定外の事態を組み込むアクシデント訓練、実施日時を一般職員に知らせないブラインド訓練、保護者に訓練の様子を見てもらう保護者理解訓練の3つの訓練方法を解説しました。

訓練を厳しいだけのものにしないことも重要です。失敗してもいい環境づくりができなければ、職員が訓練を嫌がるようになり、形式的な訓練に戻ってしまいます。失敗を学びの機会として捉え、小さな成功を認め、疑問を感じて話し合える要素を入れることが大切です。

また「保育士も被災者である」ことを忘れてはいけないとお伝えしました。「子どものために」と根性で頑張りすぎると、先生が倒れた時にそこにある小さな命も守れなくなります。

3. 水害を想定した防災備蓄

保育園で備える水害用備蓄について、72時間耐える備蓄品リストをもとに解説しました。備蓄の基準は「園児全員+職員全員の3日分、可能なら5日分」とし、2階以上(または浸水しない場所)に保管することが鉄則です。

特に0歳児向け備蓄を最重要として、液体ミルクの備蓄が必須であることを強調しました。
また水害特有の備蓄として、浸水対策・水から守るための備品についても具体的にお伝えしました。

備えるだけでなく、備蓄の管理と運用の仕組みづくりも重要であり、水害にも地震にも対応できる管理体制の構築をご提案しました。

4. 水害防災マニュアル

多くの保育園の防災マニュアルが火事・地震だけの内容になっている現状を指摘し、佐賀県においては水害マニュアルの整備が最も緊急度が高いことをお伝えしました。
「あなたの園のマニュアルから”水害””浸水””洪水””豪雨”がどれだけ出てくるか? ほとんど出てこないなら改訂が必要です」と具体的な見直しの視点をお示ししました。

気象情報の確認体制と判断基準について、「気象情報に注意する」ではなく「具体的にどこを見るか決めておく」ことの重要性を解説しました。
佐賀地方気象台の警報、キキクル、佐賀県河川防災情報、最寄り河川の水位観測所などをQRコード付き一覧で職員に配布することをおすすめしました。

水平避難(外に逃げる)と垂直避難(2階に上がる)の2種類の判断基準をマニュアルに明記すること、浸水後の対応と園の再開手順まで決めておくこと、そして分厚いマニュアルは災害時に読めないため、役割別にA4一枚の「アクションカード」を用意して、掲示することをご提案しました。

ワーク:引き渡し拒否ロールプレイング

講座の中で、引き渡し拒否のロールプレイングを実践してもらいました。

保護者が迎えに来た時の対応は、水害時に最も判断が難しい場面です。
過去の豪雨では迎えに向かった保護者が車ごと濁流に巻き込まれて亡くなった事例がある一方、園に待機していた子どもは無事だったケースがあります。

引き渡し拒否の5つの判断基準(大雨特別警報等の発表時、園周辺の冠水時、保護者の負傷時、保護者の酩酊時、本人確認不可時)をお伝えしたうえで、ロールプレイングを行いました。

想定:洪水警報でのお迎え — 父親が「雨もそんなに強くないし、車でサッと帰る」と主張する場面。「決まりですので」ではなく「お父さんとお子さんの命を守る判断です」と命を主語にした対応を実践しました。

ワーク:命のジレンマ討論

正解のない3つのテーマでグループ討論を実施しました。

「今、園を出て避難するか?」
大雨警報発令中、園の前の道路に水が10cm溜まり始めた状況。0歳児8名、1〜2歳児12名、3〜5歳児20名の計40名、職員6名での避難判断を考える。

「動ける子だけ先に避難させるか?」
30分後に1階浸水の見込み。3〜5歳児は歩けるが、0〜2歳児は職員6名では一度に全員を運べない状況での判断を考える

「園の前で助けを求める人がいたら?」 — 園の2階から、水に流されかけている高齢者が見える。助けに行くには浸水した水の中に入る必要があり、119番はつながらない状況での判断を考える

日常業務に組み込む防災

講座の最後に、防災を防災だけにせず日常業務に組み込むことの大切さをお伝えしました。

朝の環境チェック時に避難経路の障害物を確認する、保育中の見守り時に園児の避難能力を把握する、清掃時間に防災用品を点検する、帰宅前に施設の安全確認を行うなど、「いつもの業務」の中に防災の視点を足すアプローチをご提案しました。

また防災対策の意外なメリットとして、園児の怪我減少、業務効率向上、保護者の信頼獲得、経営改善につながることもお伝えしました。

講座の特徴

本講座の最大の特徴は、佐賀の地形特性に完全に特化した水害対策をお伝えした点です。

真備町と佐賀平野の地形的類似性を具体的に示し、「同じことが起こりうる」という危機感を共有したうえで、佐賀の保育園が今すぐ取り組むべき対策を具体的にお伝えしました。

また、引き渡し拒否ロールプレイングという実践的なワークを取り入れたことで、「頭では分かっていたけど、実際に言葉にするのは難しい」という気づきを参加者の皆様に体感していただきました。知識としての防災を「実際に動ける防災」に変える3時間となりました。

当日の様子

佐賀市内の私立保育園の園長先生方にご参加いただき、10時から13時までの3時間にわたる充実した研修となりました。

引き渡し拒否ロールプレイングでは、普段は保護者に寄り添う立場の園長先生方が「引き渡しを断る」ことの難しさを実感されました。
また引き渡しは考えているが、引き渡さないことは考えてなかったという声もありました。

命のジレンマ討論では、「動ける子だけ先に避難させるか」のテーマで特に活発な議論が行われ、園の構造や職員体制によって判断が異なることを共有し合う場面が印象的でした。

まとめ

今回の佐賀市私立保育園会 園長研修会では、西日本豪雨で緊急援助隊として活動した経験をもとに、佐賀の地形特性に特化した保育園の水害対策について3時間にわたりお伝えしました。

消防士としてたくさんの命が失われるのを見てきました。同時に理想の防災を作り上げる難しさも知っています。だからこそ現場の制約を理解し、予算の限界を知り、忙しさを分かった上で「できることがある」と伝えたい。何も起こらないのが理想です。でももしもの時に後悔しないでほしい。

佐賀は水害リスクが高い地域です。
だからこそ、保育園の水害対策は待ったなしです。今回の研修が、園長先生方が自園の水害対策を見直す一歩となり、園児と保育士の命を守る体制づくりにつながることを心から願っています。

1歩ずつ、できることから始めましょう。全力で協力します。

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