大雨のとき、道路に水がたまり始めても、
「家までもう少しだから」
「このくらいなら車で通れるだろう」
「とりあえず家に帰った方が安全だろう」
と考えてしまうことがあります。
しかし、豪雨時に危険なのは、雨そのものだけではありません。
道路が冠水する。
アンダーパスに水がたまる。
通行止めになる。
電車が止まる。
川の水位が上がる。
こうした変化が重なると、普段なら問題なくできる「移動」そのものが危険になります。
2026年8月に発生した千葉県の記録的な大雨でも、道路の冠水や車両の水没などが発生しました。
豪雨のときに考えなければならないのは、
「どうやって目的地へ行くか」だけではありません。
今はまだ移動していい状況なのか。
この判断が重要です。
この記事では、道路が冠水したときの車の危険、大雨時の避難や帰宅の考え方、そして危険になる前に決めておきたいことをお伝えします。
令和8年8月千葉豪雨では、道路そのものが使えなくなった
2026年8月13日から千葉県で記録的な大雨となり、気象庁によりはこの豪雨を「令和8年8月千葉豪雨」と命名しました。
気象庁が豪雨災害に名称を定めるのは、被害の大きかった自然現象について、災害の経験や教訓を後世に伝えることなどを目的とています。
千葉県では線状降水帯が発生し、千葉市では24時間降水量が360ミリを超え、観測史上1位を更新しました。
多くの道路で冠水による通行止めが確認され、国道16号では冠水箇所で水没した車両の乗員が搬送されています。
ここで考えてほしいのは、
「ものすごい雨だった」ということだけではありません。
いつも通っている道路が、豪雨になれば移動経路として使えなくなるということです。
そして道路が冠水してから、
「別の道を探そう」
「避難所へ行こう」
「家に帰ろう」
と考え始めると、すでに選択肢がかなり減っている場合があります。
また渋滞によって、動けなくなる可能性もあります。

冠水した道路には入らない。それが最も重要
道路が冠水していると、
「浅そうだから通れそう」
と感じることがあります。
しかし、水面を見ただけでは、
- 実際の水深
- 道路の端
- 側溝
- マンホール
- 路面の損傷
- 水の流れ
まで判断することはできません。
国土交通省も、水深や道路の端が分からない冠水道路、特にアンダーパスなどには進入しないように注意喚起しています。
つまり、
冠水して先の状況が分からない道路には入らない。
これを原則にした方が安全です。

車が水で壊れるというイメージがないために、そのまま突き進んでしまう人は少なくありません。
「車だから大丈夫」は通用しない
大雨のとき、
「歩くより車の方が安全」
と考える人もいます。
確かに、雨が強くなる前の早期避難では、車が有効な避難手段になる場合があります。
問題は、道路がすでに冠水してから車を使うことです。
JAFが実施した冠水路走行テストでは、水深30cmでも走行速度などの条件によって、車内やボンネット内部への浸水、車体部品の脱落などが確認されています。
水深60cmの条件では、さらに走行が困難になるケースがあります。
ただし、ここで、
「30cmなら走れる」
「SUVなら大丈夫」
と考えてはいけません。
車種、速度、水流、路面状況、傾斜などによって結果は変わります。
水位が上がり始める前に避難することが重要です。



西日本豪雨でも多くの車が、故障しています。
アンダーパスは特に注意する
アンダーパスとは、鉄道や道路などの下をくぐるために、周囲より低く掘り下げられた道路のことをいいます。
国土交通省は、局地的な大雨によって冠水する可能性のあるアンダーパスなどを「道路冠水注意箇所」として公表しています。
普段使っている通勤・通学路にアンダーパスがあるなら、
災害が起きてからではなく、平常時に確認しておくこと
が重要です。


もし車が水につかってしまったら
最優先は、冠水道路へ入らないことです。
それでも予想以上に急激に水位が上がり、車が動かなくなる可能性はあります。
国土交通省は、車両が水中に取り残された場合、
まずシートベルトを外し、窓を開けて脱出すること、窓が開かない場合には緊急脱出用ハンマーなどを使用することを案内しています。
そのため車には、
緊急脱出用ハンマーやシートベルトカッター
を、運転席からすぐ手が届く場所に備えておくとよいでしょう。
ただし、これも「冠水道路へ入っても脱出できるようにする」という意味ではありません。
脱出用品は最後の備えです。
一番安全なのは、危険な道路へ入らないことです。



最悪の場合、ヘッドレストを使う方法もありますが、こういう事態にならないことこそが大事です。
レベル5になってから避難するのでは遅い
令和8年8月千葉豪雨では、千葉県の広い範囲にレベル5大雨特別警報が発表されました。
気象庁はこの際、
レベル5特別警報が発表される状況では、災害がすでに発生している可能性が極めて高く、特別警報が発表されてから避難するのでは手遅れとなると注意を呼びかけています。
ここは非常に重要です。
「まだレベル5ではない」
ということは、
「まだ何もしなくていい」という意味ではありません。
2026年5月29日から、防災気象情報も5段階の警戒レベルとの関係が分かりやすい体系へ変更されています。
新しい情報の見方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ 新しい防災気象情報で何が変わる?警戒レベルと避難判断の見方を分かりやすく解説
大切なのは情報名を覚えることではありません。
その情報が出たときに、自分の場所では何をするのかを決めることです。
大雨では「避難所へ行くこと」だけが避難ではない
避難というと、
「自宅から避難所へ移動する」
ことを思い浮かべる人が多いと思います。
しかし、道路がすでに冠水している場合、外へ出ること自体が危険になることがあります。
大雨や浸水の中での移動では、マンホールや側溝が見えなかったり、見えづらかったりして、転落などの危険があり、状況によっては遠くへ移動したり、避難所に行くよりも、高い階などで安全を確保する方が適切な場合もあります。
もちろん、
「大雨なら家にいればいい」
という意味ではありません。
洪水、土砂災害、高潮など、何が想定される地域なのか。
自宅が浸水想定区域に入っているのか。
建物の高さや構造はどうなのか。
これによって適切な行動は変わります。
だからこそ、雨が降ってから初めて避難先を決めるのでは遅いのです。
自分の住まいや職場のハザードマップを見ておくことも大切です。
「家に帰る」が安全とは限らない
豪雨時に意外と見落とされるのが、帰宅するという行動そのものの危険です。
仕事をしている。
子どもが保育園にいる。
買い物をしている。
地域活動をしている。
そんなときに大雨になると、
「早く家に帰らなければ」
と考えます。
しかし、
会社は安全なのに帰宅経路が冠水している。
保育園は安全なのに、保護者がお迎えに向かう道路が危険になっている。
自治会で安否確認をしようとして、支援する人が冠水道路へ入ってしまう。
こうしたことも起こり得ます。
豪雨時には、
「家に帰るか」ではなく、「移動する方が安全か」を考える。
この判断は、家庭だけではなく、企業・保育園・地域でも大切です。
企業の場合
会社は、
「警報が出たら帰宅させる」
だけでは不十分です。
いつまでなら安全に帰宅できるのか。
交通機関が止まった場合はどうするのか。
道路冠水が始まったあとも帰宅させるのか。
社内に留まる場合の水・食料・トイレはあるのか。
企業側で決めておく必要があります。
→ 大雨のとき従業員を帰宅させる?会社に留める?企業が決めておきたい判断基準
決めていない、何もしていないでもしものことが起こった場合、会社の責任問題は避けられません。
保育園・こども園の場合
保育園では、
「大雨だから早く迎えに来てもらう」
という判断にも注意が必要です。
まだ道路が安全な段階で早めに依頼する場合と、すでに道路が冠水し始めてから「すぐ迎えに来てください」と連絡する場合では意味が違います。
保護者を危険な道路へ向かわせる可能性まで考える必要があります。
→ 大雨のとき保育園はお迎えを依頼する?豪雨時の保護者連絡・引き渡し判断
保育園の水害対策全体については、こちらも参考にしてください。
自治会・町内会の場合
地域では、
「高齢者の様子を見に行こう」
「避難しているか確認しよう」
という善意が、支援する人自身の危険につながることがあります。
声かけや安否確認は大切です。
だからこそ、危険になる前に行う仕組みが必要です。
→ 大雨・豪雨で自治会は何をする?避難の声かけ・安否確認で決めておきたいこと



田んぼや川の様子を見に行くは絶対にしてはいけません。
豪雨になる前に決めておきたい5つのこと
大雨のときに慌てないためには、雨が降っていない日に確認しておくことがあります。
1.自宅・職場・学校などの災害リスクを確認する
ハザードマップで、
- 洪水
- 内水氾濫
- 土砂災害
- 高潮
など、自分に関係する災害を確認します。
「避難所がどこか」だけを見るのではなく、
自分がいる場所にどのような危険があるか
自宅から避難所までの道には危険があるかないかを
を見ることが重要です。
2.いつもの移動ルートに低い場所がないか確認する
通勤・通学・保育園への送迎ルートに、
- アンダーパス
- 川沿い
- 用水路沿い
- 過去に冠水した道路
- 周囲より低い道路
がないか確認します。
一つの道だけでなく、別のルートも知っておくことも大切です。
3.避難先を一つだけにしない
指定避難所だけでなく、安全な親族・知人宅、近くの高い建物なども含め、複数の避難先を考えておくことが重要です。
また、家族ともその話をしておきましょう。
4.「これ以上危険になったら移動しない」という基準も考える
防災では、
「いつ避難を始めるか」
だけでなく、
「いつから無理に移動しないか」
も重要です。
道路が冠水している。
夜になり周囲が見えない。
強い雨が続いている。
すでに避難経路が安全か判断できない。
そうなってから遠くの避難所を目指すのではなく、その時点で可能な安全確保を考えるようにしてください。
自分は大丈夫と思ってしまわないようにしてください。
5.家族で「帰らない場合」まで話しておく
家族防災では、
「災害が起きたら家に集合」
という約束だけでは不十分です。
豪雨の場合、
家へ帰るための移動そのものが危険になる可能性があります。
「職場が安全なら無理に帰らない」
「子どものいるところから連絡があるまで危険な道路へ入らない」
など、
離れたまま安全を確保する選択肢
についても家族で話しておきましょう。


西日本豪雨の現場でも感じた「少し早く決める」ことの重要性
私は消防士として、西日本豪雨でも災害対応の現場で活動しました。
道路が使えるうちに移動する。
水位が上がる前に避難する。
危険な場所へ入る前に引き返す。
家族や職員へ早めに連絡する。
一つ一つは特別なことではありません。
しかし、災害では時間がたつほど、できることが減っていきます。
防災は、
「危険になったらどうするか」
だけを考えるものではありません。
危険になる前に、どこで判断するかを決めておく。
ここまで考えて初めて、実際の災害で使える備えになります。



空振りすることを恐れず、早めの避難が大切です。
豪雨時は「どう移動するか」より「今、移動するべきか」
大雨で道路が冠水したとき、
一番大切なのは、無理に目的地へ向かわないことです。
冠水道路には入らない。
アンダーパスを避ける。
レベル5を待たない。
避難所へ行くことだけを避難だと思わない。
「家に帰ること」が必ず安全とは考えない。
そして何より、
空振りを恐れず、道路が危険になる前に判断する。
豪雨では、数十分前までできていた移動が、その後できなくなることがあります。
だからこそ、
「危険になってからどう逃げるか」ではなく、「危険になる前にどう決めるか」。
これを家庭、会社、保育園、地域それぞれで考えておくことが重要です。
豪雨時の判断は、立場によって変わります。
企業・事業所
→ 大雨のとき従業員を帰宅させる?会社に留める?企業が決めておきたい判断基準
保育園・こども園
→ 大雨のとき保育園はお迎えを依頼する?豪雨時の保護者連絡・引き渡し判断
自治会・町内会
→ 大雨・豪雨で自治会は何をする?避難の声かけ・安否確認で決めておきたいこと
警戒レベル・防災気象情報
よくある質問
Q.道路は何cmくらい冠水したら車で走れなくなりますか?
一律に「○cmなら安全」と考えない方がよいです。
車種、速度、水流、道路の傾斜などによって状況が変わります。水深や道路の端が分からない冠水道路には進入しないことを基本にしてください。特にアンダーパスなど水深が分からない場所へは立ち入らないようにしましょう。
Q.道路が冠水していても避難所へ行った方がいいですか?
必ずしもそうではありません。
すでに外へ出る方が危険な状況では、その時点で可能な安全確保を考える必要があります。近くの頑丈な建物や上階への移動などが適切な場合もあります。
ただし、洪水・土砂災害など災害の種類や建物の状況によって判断は異なります。だからこそ危険になる前の避難が重要です。
Q.レベル5になったら避難すればいいですか?
レベル5は、すでに災害が発生している可能性が極めて高く、直ちに身の安全を確保する段階です。避難するより、その時々の最善の安全をとることが大切です。
ただ、実際できることは限られています。レベル5になる前に動くことが重要です。
Q.大雨のときは会社や学校から早く帰った方が安全ですか?
早い段階で帰宅することで安全を確保できる場合はあります。
一方、すでに道路の冠水や交通機関の停止が始まっている状況では、帰宅するための移動の方が危険になることがあります。
「帰宅するか」だけではなく、現在地・帰宅経路・交通状況を合わせて判断することが重要です。









