大雨のとき従業員を帰宅させる?会社に留める?企業が決めておきたい判断基準

大雨が予想される日の夕方。

雨が強くなり、電車の遅延情報も出始めた。

こんなとき会社として、

「危ないから、今日は早く帰ってください」

と指示することがあります。

早期帰宅そのものは間違いではありません。

まだ安全に帰れる段階なら、早く業務を切り上げて帰宅させることは有効な安全対策です。

しかし、判断が遅れ、

道路がすでに冠水している。
鉄道が止まっている。
河川の水位が上昇している。
帰宅経路に危険が生じている。

こうした状況になってから、

「危ないので全員帰宅してください」

と指示すると、今度は会社から外へ出すこと自体が危険になる可能性があります。

企業が豪雨時に決めておくべきなのは、

「帰宅させるか、会社に留めるか」だけではありません。
「いつまでなら帰宅させ、どこからは帰宅させないのか」です。

この記事では、2026年8月に発生した「令和8年8月千葉豪雨」も踏まえながら、企業が決めておきたい従業員の帰宅・待機・休業の判断について解説します。

豪雨時の道路冠水や一般的な移動判断については、こちらの記事もあわせてご覧ください。

→ 大雨・豪雨で道路が冠水したらどうする?車・避難・帰宅で迷わないための判断ポイント

目次

令和8年8月千葉豪雨では、道路だけでなく鉄道やバスにも影響した

2026年8月13日から千葉県で発生した記録的な大雨について、気象庁は「令和8年8月千葉豪雨」と名称を定めました。

国土交通省の8月14日17時時点の第3報によると、千葉市では24時間降水量が360ミリを超え、観測史上1位を更新しました。国道16号などでは冠水による通行止めが発生し、高速道路でも切土崩落による通行止めが発生しています。

さらに鉄道ではJR東日本や京成電鉄で浸水や土砂流入、路盤流出などが発生し、在来線は3事業者9路線が運転を見合わせました。高速バス21路線、路線バス27路線でも運休が確認されています。

これは企業防災を考えるうえで重要です。

会社の建物に被害がなくても、

従業員が帰宅するための交通網が使えなくなることがあります。

そして、さらに深刻なのは、

交通機関が止まる前に帰宅させればよかったのに、止まってから帰宅指示を出してしまうことです。

交通機関は都会の方が充実しています。それゆえに止まってしまうと身動きが取れなくなってしまいます。

「危ないから帰宅させる」が、かえって危険になることがある

内閣府は2020年、出水期を前に経済3団体へ、災害警戒時には来客や従業員の安全確保を最優先するよう協力を要請しています。

その中では、災害が予想される段階で計画休業やテレワークを早期に決定すること、危険性が高まった段階では早期退勤を行うことに加え、

帰宅する方が危険な場合には、帰宅を抑制して従業員を待機・受け入れる

という考え方まで示されています。

つまり国の考え方も、

「大雨なら帰宅」ではありません。

状況に応じて、

早く帰す
→ 帰さない
→ 必要なら別の安全な場所へ避難する

と判断を変える必要があります。

状況によってというのが非常に難しいです。
就業時間終了間際の場合、会議している場合、繁忙期の場合など状況はいつも違います。また子どもや介護の必要な家族がいる場合はどうするのか?命が優先されますが、考えることはたくさんあります。避難してくださいと言われてもいざという時まで決めきれない原因でもあります。

企業が決めるべきなのは「帰宅させる時刻」ではない

例えば、

「大雨警報が出たら15時に帰宅」

というルールを作ったとします。

一見分かりやすいのですが、これだけでは十分ではありません。

同じ15時でも、

まだ道路が安全な日もあれば、すでに冠水している日もあります。

鉄道が動いている場合もあれば、計画運休が始まっている場合もあります。

会社周辺は安全でも、ある従業員の帰宅経路だけ河川沿いということもあります。

そのため、

時刻だけでなく、状況を組み合わせて判断する仕組み

が必要です。

空振りになることが多く判断は非常に難しいので、決めておくことが大切になります。

帰宅・待機を判断する6つのポイント

1.まず「会社に留まることが安全か」を確認する

最初に確認するのは帰宅経路ではありません。

現在いる会社そのものが安全かです。

会社が浸水想定区域にある。
土砂災害警戒区域にある。
地下や1階に重要設備がある。
河川の近くにある。

こうした事業所であれば、

「外が危険だから会社に留まる」

こと自体が危険になる場合があります。

その場合は、さらに状況が悪化する前に、より安全な場所へ避難する判断が必要です。

つまり、

「帰宅しない=会社に留まり続ける」でもありません。

会社の災害リスクを平常時にハザードマップ等で確認が前提として重要です。

2.帰宅経路が安全かを見る

会社が安全でも、帰宅経路が危険なら帰宅させるべきではありません。

特に確認したいのは、

道路冠水、アンダーパス、河川沿い、土砂災害の危険がある道路、通行止めなどです。

令和8年8月千葉豪雨でも、国道や県道など複数の道路で冠水や崩落、スタック車両が確認されました。

ここで、

「本人が帰れると言っているから」

だけで判断しないことも重要です。

本人が会社周辺の状況は分かっていても、30分後に通る道路の状況まで把握できているとは限りません。

3.鉄道やバスが「まだ動いている」だけで判断しない

鉄道についても、

「まだ運休していないから大丈夫」

とは限りません。

計画運休が予告されているなら、その時刻までに多数の人が駅へ集中する可能性があります。

また運転再開時も、輸送力が十分でなく駅に人が集中することがあります。

「電車が止まったら考える」のではなく、

止まる可能性が出た時点で勤務をどうするか決める

方が安全です。

4.全従業員を同じタイミングで動かさない

従業員によって帰宅条件は異なります。

自家用車で10分の人と、電車を乗り継いで1時間半かかる人ではリスクが違います。

公共交通機関、自動車、自転車、徒歩でも状況は変わります。

そのため、

「15時になったので全員帰宅」

という一律運用より、

通勤手段や帰宅に必要な時間も考慮して、早い段階から段階的に判断する

方が安全です。

5.「帰れない人」を想定する

企業の大雨対策で抜けやすいのがここです。

帰宅させるルールはある。

しかし、

帰宅できなくなった場合のルールがない。

これでは十分とは言えません。

豪雨によって交通機関が止まれば、従業員が数時間から一晩程度、会社に留まらざるを得ない可能性があります。

水、食料、携帯トイレ、照明、スマートフォンの充電手段、毛布などを用意しておく必要があります。

企業の備蓄についてはこちらで詳しく整理しています。

→ 企業の防災備蓄は何をどれくらい用意する?従業員数から考える備蓄の基本

ただし、備蓄があるからといていいと安易に考えてはいけません。
あくまで建物自体が安全であるというのが前提です。

6.最後は「誰が決めるか」を決めておく

実際の災害では、情報が完全にそろうことはほとんどありません。

社長が不在。
総務担当者が休み。
管理職によって判断が違う。

こうなると、

「もう帰った方がいいのでは?」
「いや、まだ大丈夫だろう」

と社内で判断が割れます。

そこで平常時に、

誰が情報を集め、誰が最終判断し、その人が不在なら誰が代行するか

まで決めておく必要があります。

防災担当者だけに判断を丸投げするのではなく、最終的に業務停止や従業員の安全に関わる判断を行える権限を明確にすることが重要です。

大雨時の企業判断は3段階で考えると分かりやすい

会社ごとに基準は異なりますが、考え方としては次のように整理できます。

状況企業の基本的な考え方
大雨・台風が予想されている計画休業、テレワーク、時差出勤、業務縮小を検討
雨が強まり、交通への影響が予想される安全なうちに段階的な早期退勤を検討
道路冠水・交通停止などが始まっている一律に帰宅させず、現在地と帰宅経路を確認。安全な会社なら待機も検討
会社自体にも浸水・土砂災害等の危険がある帰宅ではなく、より安全な場所への避難を検討

重要なのは、

この表を災害当日に初めて考えないことです。

自社の場所、従業員、勤務形態に合わせて、平常時に判断基準を作っておくようにしましょう。

「警報が出たら帰宅」だけではなく、防災情報を判断材料にする

2026年5月29日から、防災気象情報の体系が変更されました。

現在はレベル3大雨警報、レベル4大雨危険警報、レベル5大雨特別警報など、レベルで示されるようになりました。

ただし企業側が、

「レベル4が出たら帰宅」

と単純に設定するのは危険です。

レベル4相当の状況では、危険な場所から避難が必要となる段階です。すでに帰宅経路に危険が生じている可能性があります。

したがって、

企業の早期帰宅判断は、危険な情報が出てからではなく、その前から検討する

必要があります。

防災気象情報の変更についてはこちらで解説しています。

→ 新しい防災気象情報で何が変わる?警戒レベルと避難判断の見方を分かりやすく解説

風水害は「事前に止められる災害」でもある

地震と風水害では企業防災の考え方が少し違います。

地震は突然発生します。

一方、台風や大雨では、数日前あるいは数時間前から予測情報が出る場合があります。

もちろん局地的な豪雨のように急速に状況が悪化することもありますが、

業務を止める、出勤させない、早く帰宅させるという判断を災害発生前にできる可能性がある

のが風水害の大きな特徴です。

企業防災では、

「災害が起きても業務を続けること」

だけがBCPではありません。

必要なときに業務を早く止めることも、事業を守るための判断です。

従業員が被災すれば、その後の事業継続にも当然ですが、大きな影響が出ます。

水害は時間がたつほど選択肢は減ってしまう

水害の現場で感じるのは、

状況が悪化してから人を動かそうとすると、できることが一気に減る

ということです。

道路が使えなくなる。
水位が上がる。
周囲が暗くなる。
車が動けなくなる。

そうなってから、

「安全な場所へ移動してください」

と言っても、移動自体が危険になります。

これは企業も同じです。

夕方になって雨が非常に強くなってから、

「今日は危険なので帰ってください」

では遅い場合があります。

必要なのは、

危険になったときの帰宅基準ではなく、危険になる前の業務停止基準です。

西日本豪雨の時に強く感じたことです。できることはあったけど、できなくなる不安。少しの差でできることが一気に減ってしまうのを強く感じました。

大雨対応をBCPや防災マニュアルに入れておく

企業の防災マニュアルを見ると、

「地震発生」

から始まっているものは多くあります。

しかし風水害の場合は、

災害が発生する前の段階

から記載しておくことが重要です。

例えば、「翌日に大雨が予想される」「計画運休の可能性が発表された」「会社周辺で危険度が上昇した」「帰宅経路で冠水が始まった」といった段階ごとに、情報収集、業務縮小、早期退勤、帰宅抑制、待機、避難の判断者を決めておきます。

自社の防災対策がどの程度まで整っているかについては、こちらも参考にしてください。

→ 企業の防災レベルを見極める|災害時に本当に動ける会社か確認するポイント

まとめ「早く帰す」と「もう帰さない」の両方を決める

大雨時の従業員対応で、

「早く帰宅させる」

こと自体は間違いではありません。

むしろ、安全に帰宅できるうちに業務を止める判断は重要です。

しかし、そのタイミングを逃して、

道路が冠水し、交通機関も止まり始めてから帰宅させると、会社の外へ出すことの方が危険になる場合があります。

だから企業は、

いつ帰宅させるか。
いつから帰宅させないか。
会社に留まれるのか。
会社も危険ならどこへ避難するか。
誰がその判断をするのか。

ここまで決めておく必要があります。

大雨対応は、

「警報が出たらどうするか」ではなく、「危険になる前にどこで仕事を止めるか」を決めることから始まります。

従業員を守ることは、結果として会社の事業継続を守ることにもつながります。

あわせて読みたい

よくある質問

Q.大雨警報が出たら従業員を帰宅させればいいですか?

一律には決められません。

警報だけでなく、会社の災害リスク、帰宅経路、道路状況、交通機関、今後の雨の予測などを組み合わせて判断する必要があります。

重要なのは、危険になってから帰宅を始めないことです。

Q.電車が止まったら会社に泊めればいいですか?

会社が安全であれば、一時的な待機は選択肢になります。

ただし会社自体に浸水や土砂災害などの危険がある場合は、その場に留まることも危険です。

「帰れない場合の待機場所」と「会社自体が危険な場合の避難先」の両方を考えておく必要があります。

Q.会社にはどのくらい備蓄しておけばいいですか?

従業員数、事業所の立地、災害リスク、交通事情などによって変わります。

少なくとも、帰宅できない従業員が発生することを想定して、水、食料、携帯トイレ、照明、充電手段などを確認してください。

詳しくは企業の防災備蓄の記事で解説しています。

Q.最終的な帰宅判断は従業員本人に任せればいいですか?

本人の事情や帰宅経路の情報は重要ですが、企業側にも会社周辺の災害情報や業務停止について判断する役割があります。

すべてを個人判断にするのではなく、会社としての基本方針を決めたうえで、個々の通勤状況に応じて対応できる仕組みにしておく方が実務的です。

企業の防災を「実際に判断できる形」に

ファーストレスキューでは、企業向けに防災研修、避難訓練、防災マニュアル・BCPの見直しなどを行っています。

単にマニュアルを作るのではなく、

「実際にこの状況になったら誰が何を決めるのか」

まで確認することを重視しています。

企業向けの防災支援については、こちらをご覧ください。

→ 企業・事業所向け防災支援|ファーストレスキュー

引用・参考資料

内閣府|災害警戒時に来客や従業員の安全確保を第一に優先する企業の対応の推進について

内閣府|企業の台風対応における事例集

国土交通省|災害に備えた鉄道の計画運休時における時差通勤・テレワーク等の企業側の取り組み

国土交通省|令和8年8月千葉豪雨による被害状況等について

気象庁|令和8年8月13日からの千葉県の豪雨の名称について

気象庁|新たな防災気象情報について(令和8年~)

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