「転びそうになったけれど、転ばなかった」
「小さな物を口に入れそうになったけれど、職員がすぐに気づいた」
「園児の人数が一瞬合わなかったけれど、確認したら全員いた」
「門が開いていたけれど、子どもは外に出なかった」
保育園や認定こども園では、事故にはならなかったものの、「危なかった」「条件が少し違えば事故になっていたかもしれない」と感じる場面があります。
この記事では、このような出来事や状態をヒヤリハットとして考えます。
結果的に誰もけがをしなかった場合、忙しい保育の中では、
「今回は大丈夫だった」
「わざわざ報告するほどではない」
と、そのまま流されてしまうことのではないでしょうか?
しかし、事故にならなかったことと、安全だったことは同じではありません。
- 今回は職員がすぐに気づいた。
- 今回は子どもが別の方向へ進んだ。
- 今回はたまたま近くに別の職員がいた。
いくつかの条件が偶然重なって、事故にならなかっただけかもしれません。
同じ状況が次に起きたときも、同じように無事で済むとは限りません。
ヒヤリハットは、職員の失敗を記録するためのものではありません。
子どもが傷つく前に、園の環境や手順、職員配置、情報共有を見直すための大切な安全情報です。
事故にならなかったのは、偶然かもしれない
こども家庭庁は、重大事故を防ぐために、「あと一歩で事故になるところであった」ヒヤリハット事例を収集し、その要因を分析して、必要な対策を講じることを示しています。
また、教育・保育施設向けのヒヤリハット事例集では、命の危険につながりかねない事例を施設内で報告し、改善策を共有することが、事故予防のうえで重要だと説明されています。
ヒヤリハットの価値は、事故件数を集計することではありません。
実際に子どもが傷つく前に、
- 危険な場所を直す
- 物の置き方を変える
- 確認方法を見直す
- 職員の役割を明確にする
- 引き継ぎ方法を変える
- マニュアルや訓練へ反映する
ことができます。
例えば、小さな玩具を子どもが口に入れそうになった場合、職員がすぐに気づいたから問題がなかった、と考えることもできます。
しかし、本当に確認したいのは、
- なぜ小さな玩具がその場所にあったのか
- 年齢の異なる子どもの玩具が混在していなかったか
- 遊びの前後に床を確認する仕組みがあったか
- 同じことが別の保育室でも起きる可能性はないか
ということです。
その日の子どもが無事だったからこそ、事故が起こる前に見直すことができます。

消防現場で感じた「一人の経験で終わる危険」
私は岡山市消防局で15年間、火災や救助の現場に携わってきました。
その中で、疑問に感じていたことの一つがあります。
現場で判断に迷ったことや、うまくいかなかったことが、必ずしも十分に共有されるとは限らないことです。
もちろん、消防では大きな事案などについて検証や振り返りが行われることがあります。
一方で、個々の現場で感じた、
- 判断に迷ったこと
- 予定どおりに進まなかったこと
- もしかしたら危なかったこと
- もっとよい方法があったかもしれないこと
- 結果的には問題にならなかったこと
まで、すべてを組織全体の知識として残すことは簡単ではありません。
ただ、火災は、同じ条件で何度も経験できるものではありません。
大きな火災や特殊な状況に出動できる職員も限られます。
だからこそ、一人の職員が経験した迷いや失敗、危なかった場面を検証し、ほかの職員へ伝えることに大きな価値があります。
経験した本人しか知らなければ、別の職員が同じような状況に直面したとき、また一から判断しなければなりません。
私は消防現場での経験から、災害において対応力を高めるためには、成功したことだけでなく、
- 危なかったこと
- 迷ったこと
- 結果的に何も起きなかったこと
も伝える必要があると考えるようになりました。
保育現場では、消防のようにもう大きな被害が出ているということがそもそもあってはなりません。
なので重大な事故を、職員が実際に経験してから学ぶわけにはいきません。
そうなる前に、一人の職員が感じた小さな違和感を園内で共有し、環境や手順を見直す。
その経験を、ほかの職員と次の子どもの安全に変える。
それが、ヒヤリハットを伝える本当の意味であり、子どもの安全を守るものなります。

経験した一人だけが知っている危険は、まだ園の安全対策にはなっていません。共有され、改善に使われて初めて、園全体を守る知識になります。


ヒヤリハットが伝わらない4つの理由
ヒヤリハットが園内で共有されないとき、職員の安全意識だけを問題にするべきではありません。
報告がないのではなく、報告しにくい状態になっている可能性があります。
1.報告すると責められると感じる
ヒヤリハットを伝えた職員が、
「なぜ見ていなかったのか」
「もっと注意できなかったのか」
と強く責められれば、次から小さな気づきは伝わりにくくなります。
職員にとっては、安全のための報告ではなく、自分の失敗を申し出る行為になってしまうからです。
2.どこまで伝えればよいか分からない
事故になっていなければ、
「この程度で報告する必要があるのか」
と迷うことがあります。
特に、園内でヒヤリハットの具体例や考え方が共有されていなければ、職員によって報告の基準が大きく変わります。
3.忙しくて記録する時間がない
保育中は、子どもの対応、保護者対応、引き継ぎ、準備、清掃など、多くの業務があります。
報告書を書くために長い時間が必要であれば、小さな気づきほど後回しになります。
最初から詳しい分析を求めるのではなく、まず起きたことを短く残せる方法も必要です。
4.伝えても何も変わらない
何度伝えても職員間で共有されない。
危険な環境がそのままになっている。
どのように対応されたのか分からない。
この状態が続けば、職員は報告する意味を感じられなくなります。
ヒヤリハットが伝わらないときは、
「職員の意識が低い」
と結論づける前に、
- 伝えた職員を責めていないか
- 何を伝えるか分かりやすいか
- 短時間で残せるか
- 伝えた後の対応が見えるか
を確認する必要があります。
報告がない園が、安全とは限らない
ヒヤリハットの報告が少なければ、安全な園なのでしょうか。
必ずしもそうとは限りません。
本当に危険な出来事が少ない可能性もあります。
一方で、
- 小さなことは言わない雰囲気がある
- 口頭で伝えて終わっている
- 何を報告すべきか分からない
- 報告すると責められる
- 報告しても改善されない
ために、危険が表に出ていない可能性もあります。
見えていない危険は、なくなった危険ではありません。
報告件数だけで安全性を判断するのではなく、職員が違和感や迷いを伝えられる状態になっているかを見る必要があります。
また、報告が増えたからといって、単純に危険が増えたとも限りません。
今まで一人の職員の中だけにあった情報が、園内に見えるようになった可能性があります。
大切なのは件数ではなく、見つかった危険を次の安全に変えられているかです。
報告者を責めると、危険が見えなくなる
ヒヤリハットが起きたとき、最初に、
「誰が確認を忘れたのか」
「なぜ注意していなかったのか」
と考えたくなることがあります。
もちろん、職員の行動や、決められた手順が守られていたかを確認することは必要です。
同じ職員ばかりで、頻繁にヒヤリハットが起こるようならそれはそれで問題を把握する必要もあります。
しかし、
「注意不足だった」
「次から気をつける」
だけで終われば、同じ状況が繰り返される可能性があります。
例えば、園児の人数確認にずれが生じた場合でも、確認した職員一人だけの問題とは限りません。
- 人数確認の方法は統一されていたか
- 移動途中で職員配置が変わっていなかったか
- 誰が最終確認するか決まっていたか
- 名簿はすぐに使える状態だったか
- 引き継ぎはできていたか
- ほかの対応が同時に重なっていなかったか
なども確認する必要があります。
個人の注意力だけに頼るのではなく、誰が担当しても確認できる仕組みに変えることが、再発防止につながります。
そして、もう一つ忘れてはいけないことがあります。
ヒヤリハットを伝えた職員は、園にとって重要な安全情報を提供した職員でもあるということです。
勇気を出して伝えた職員が責められれば、次から情報は上がりにくくなります。
情報が上がらなければ、園長や主任も危険を把握できません。



報告者を責めて危険を見えなくするより、報告を受けて仕組みを直す方が、子どもの安全につながります。報告をしやすい、手間が増えないということも大切です。


小さな気づきを、園の安全に変える
ヒヤリハットは、伝えただけでも、記録しただけでも終わりではありません。
子どもの安全につなげるには、次の流れが必要です。
1.気づく
「少し危なかった」
「判断に迷った」
「いつもの方法では対応しにくかった」
という違和感を、そのままにしないことから始まります。
2.伝える
事故になっていなくても、同じ状況が繰り返される可能性があれば、園長、主任、担当者などへ伝えます。
誰へ伝えるのか、緊急性が高い場合はどうするのかを決めておくことも必要です。
3.確認する
起きたことだけでなく、背景を確認します。
- どのような環境だったか
- 職員配置はどうだったか
- 手順は分かりやすかったか
- 情報共有はできていたか
- 時間や人員に余裕がなかったか
- 同じことが別の場所でも起こり得ないか
個人の行動だけでなく、周囲の条件も見ます。
4.変える
「次から気をつける」だけで終わらせず、具体的に変えます。
例えば、
- 物の保管場所を変える
- 確認方法を統一する
- 職員配置を見直す
- 表示や名簿を分かりやすくする
- 引き継ぎ項目を追加する
- マニュアルを修正する
- 避難訓練で確認する
といった対応です。
5.共有する
ヒヤリハットを経験した職員だけの知識にしません。
必要に応じて、職員会議、朝礼、引き継ぎ、園内研修などで共有します。
全職員が長い報告書を読む必要はありません。
「何が危なかったのか」
「園として何を変えたのか」
「今後何を確認するのか」
が伝わることが重要です。
6.確かめる
改善策を実施した後、本当に危険が減ったか確認します。
物の置き場所を変えただけで終わらず、その状態が続いているかを見る。
確認方法を変えたなら、職員が実際に使えているかを見る。
避難に関する課題なら、次の訓練で確かめる。
改善して終わりではなく、改善が機能しているかまで確認することが必要です。


記録するだけでは、子どもの安全は変わらない
ヒヤリハットの記録方法は、紙でもデジタルでも構いません。
現在の方法で、
- 職員が無理なく伝えられる
- 園長や主任が内容を確認できる
- 必要な改善策を決められる
- 職員間で共有できる
- 改善後の状況を確認できる
のであれば、その方法を続けて問題ありません。
大切なのは、記録媒体ではなく、その後です。
紙に記入してファイルへ綴じるだけになっていないか。
職員会議で報告して終わっていないか。
対策を決めた後、実施されたか確認できているか。
似たようなヒヤリハットが繰り返されていないか。
ヒヤリハットは、保存するための記録ではありません。
園の環境や仕組みを変えるための記録です。
記録された情報が、安全点検、職員研修、避難訓練、安全計画、事故防止マニュアルなどへつながることで、園全体の安全管理に活かせます。
ファーストレスキューが考えるヒヤリハットの役割
ファーストレスキューでは、ヒヤリハットを「記録を増やすための業務」とは考えていません。
また、職員の失敗を探すための仕組みでもありません。
一人の職員が気づいた危険を、園全体の知識に変える。
記録された内容から、環境、手順、職員配置、訓練、マニュアルを見直す。
そして、同じ状況で次の子どもが事故に遭わないようにする。
そこまでつながって初めて、ヒヤリハットを活かせたと考えます。
現在の記録方法で改善まで継続できているのであれば、無理に新しい仕組みを導入する必要はありません。
一方で、
- 紙や複数のファイルに記録が分散している
- 園長や主任が対応状況を把握できない
- 過去の事例を探せない
- 改善策を決めても、その後を確認できていない
- ヒヤリハット、安全点検、避難訓練がつながっていない
という場合は、記録と改善の流れを見直す方法があります。
ファーストレスキューが提供する「ほいくレスキュー」は、日々の気づきや訓練の記録を、園長確認、職員間の共有、次の改善につなげやすくするための保育園・こども園向け安全管理ツールです。記録を増やすことではなく、記録を活かして改善することを目的としています。
ツールだけでは改善を続けにくい園に対しては、ヒヤリハット、避難訓練、備蓄、安全確認などを定期的に確認し、次に見直すことを整理する年間サポートも行っています。
ただし、すべての園にツールや年間支援が必要なわけではありません。
まずは現在の園で、
「気づきを伝えられているか」
「改善する内容を決められているか」
「決めた改善が実施されたか確認できているか」
を見直すことが大切です。
事故にならなかった経験を、その日の偶然で終わらせない
ヒヤリハットは、職員の失敗を記録するものではありません。
子どもが傷つく前に届いた、安全を見直すための情報です。
今回は事故にならなかったとしても、危険な環境や手順が残っていれば、次も無事とは限りません。
大切なのは、
- 小さな違和感を伝えられること
- 伝えた職員を責めないこと
- 個人だけでなく環境や仕組みを見ること
- 具体的な改善につなげること
- 一人の経験を職員全体で共有すること
- 改善できたかを確かめること
です。
ヒヤリハットを共有することは、誰かの失敗を探すことではありません。
同じ状況で、次の職員や次の子どもが事故に遭わないようにすることです。



事故にならずに済んだ気づきを、その日だけの経験で終わらせない。大きな事故にならないように、園全体の安全に変えていくことが、ヒヤリハットを伝える本当の目的です。
ファーストレスキューでは、保育園・こども園のヒヤリハット、安全点検、避難訓練などについて、記録方法や改善の進め方を含めて相談を受けています。

