保育園では、毎月避難訓練を行っています。
火災
地震
不審者
水害
さまざまな災害を想定しながら、年間を通して訓練を続けている園も多いと思います。
一方で、毎月実施するからこそ、
「今月は何をしよう」
「去年の年間計画を少し変えればいいかな」
「火災と地震を交互に入れておこう」
と、年間計画を埋めること自体が目的になってしまうこともあります。
保育所では、避難や消火に対する訓練を少なくとも毎月1回行うことが基準上求められています。
つまり、1年間で何度も訓練できるということでもあります。
日々忙しい業務がある中で、せっかく毎月訓練するのであれば、
12回の訓練を12個の別々の行事にするのではなく、前の訓練から次の訓練へつなげてほしい。
4月に基本を確認する。
5月に見つかった課題を確認する。
基本が身についてきたら、一つ条件を変える。
地震や水害、午睡中など違う状況でも試してみる。
そして年度の後半では、
「職員が自分たちで判断して子どもを守れるか」
まで少しずつ確認していく。
こうした年間計画にすることで、毎月の避難訓練が「今月も終わった」から、
「今月また一つ、子どもを守れることが増えた」
へ変わっていくと思っています。

日々忙しい中で、訓練をするのは大変だと思います。でも慣れてしまって、こなすだけの訓練ではいざという時に命を守れません。
毎年想定を変えるまでいかなくても、何か一つでもできるようになることが大切です。
保育園の避難訓練年間計画は「12種類の訓練を考える表」ではない
年間計画というと、
4月は火災。
5月は地震。
6月は不審者。
7月は水害。
というように、12か月分の災害想定を埋めるものと思われがちです。
もちろん、災害の種類を偏らせないために年間で整理することは必要です。
しかし、もう一つ大切な役割があると思っています。
それは、
訓練を一年間でどう育てていくかを考えることです。
例えば4月。
新しい職員も入り、クラスも変わっています。
この時期からいきなり難しい訓練を行うより、
- 避難経路
- 役割
- 人数確認
- 避難車
- 子どもへの声かけ
といった基本を確認する。
その訓練で、
「乳児を避難車に乗せるまでに時間がかかった」
という課題が見つかった。
そうしたら次の訓練では、その部分をもう一度確認する。
前回の訓練が、次回の訓練を決める。
年間計画には、この考え方を入れてほしいと思っています。
避難訓練そのものを「実施した」で終わらせない考え方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ 避難訓練をやっただけで終わらせない。形骸化を防ぎ、本当に命を守る訓練にするために
まずは「基本→応用→確認」の流れを作る
年間計画を考えるとき、私は大きく3つの段階に分けると整理しやすいと思っています。
基本を確認する時期
年度初めや職員体制が変わった時期には、
- 避難経路
- 役割分担
- 人数確認
- 通報
- 初期対応
- 子どもの誘導
といった基本を確認します。
一つ条件を変えてみる時期
基本的な動きができてきたら、
「園長が不在」
「いつもの避難口が使えない」
「園児がトイレにいる」
など、一つだけ条件を加えてみます。
実際の状況に近づける時期
さらに慣れてきたら、
職員全員に細かな展開を知らせない。
時間帯を変える。
通常とは違う職員配置で行う。
二次避難まで確認する。
など、少しずつ判断する場面を増やしていきます。
この段階的な進め方については、既存記事で詳しく紹介しています。
→ 保育園の避難訓練を一歩進める方法|アクシデント訓練・ブラインド訓練の進め方
年間計画では、毎月まったく違う難しい訓練を考える必要はありません。
基本に戻る月があってもいいです。
前回の課題だけを確認する月があってもいいです。
むしろ、その方が訓練の積み重ねになります。



新しい訓練や難しい訓練をして欲しいということではありません。
できることを増やすというのが目的です。


保育園の避難訓練年間計画の例
年間計画には、園の立地、建物、子どもの年齢、職員体制などによって違いがあります。
そのため、すべての園で同じ年間計画を使えばよいわけではありません。
一例として、次のような考え方があります。
| 時期 | 主な想定 | その月に確認すること |
|---|---|---|
| 4月 | 火災 | 新年度の避難経路・役割・人数確認 |
| 5月 | 地震 | 揺れている間の安全確保と揺れた後の確認 |
| 6月 | 火災 | 前回までの課題+通報・初期消火 |
| 7月 | 水害 | 情報収集、避難判断、保護者連絡 |
| 8月 | 地震 | 午睡中の安全確保・避難 |
| 9月 | 火災 | いつもの避難経路が使えない想定 |
| 10月 | 地震 | 園長・主任不在時の判断 |
| 11月 | 火災 | 調理室・別室などへの情報伝達 |
| 12月 | 地震 | 二次避難先までの移動確認 |
| 1月 | 火災 | 通常と異なる職員配置で確認 |
| 2月 | 地震 | 保護者への連絡・引き渡しまで確認 |
| 3月 | 総合 | 1年間の課題を再確認する訓練 |
これは完成形ではありません。
重要なのは、
「何月に何災害を入れるか」より、「その訓練で何を確認するか」が書かれていることです。
同じ火災訓練でも、
4月は避難経路
6月は通報
9月は代替経路
11月は情報伝達
と目的を変えられます。
これなら基本訓練を繰り返しながら、確認する内容を少しずつ増やしていけます。



何を確認するかが書かれているかは非常に重要です。ただそれが書いただけで知らずに訓練してるにならないことも重要です。
年間計画を決めすぎないことも大切です
ここで一つ注意したいことがあります。
4月の時点で、
「12月は必ずこの訓練をする」
とすべて固定しすぎない方がよい場合があります。
なぜなら、訓練をすれば課題が出るからです。
例えば9月に、
「第二避難経路を避難車が通れなかった」
と分かった。
それなのに10月は年間計画どおり、まったく別のテーマへ進んでしまう。
これでは、せっかく見つけた課題が置き去りになります。
年間計画は必要です。
でも、年間計画を守ることより、訓練で見つかった課題を次へつなげることの方が大切です。
年間の大枠を決めておきながら、
「前回の課題に応じて内容を調整する」
という余白を残しておいてください。
4月は、まず新しい体制で基本をそろえる
年度が変わると、
職員
クラス
園児
担当
部屋
さまざまな条件が変わります。
昨年度できていたことが、今年度もそのままできるとは限りません。
特に年度初めは、
誰が指揮するか。
誰が乳児を避難させるか。
誰が各部屋を確認するか。
人数確認を誰へ報告するか。
どの門を使うか。
名簿はどこにあるか。
といった基本を一度そろえておくことが重要です。
基本的な確認項目については、こちらの記事にまとめています。
最初から職員を試すような訓練にする必要はありません。
まず、
「自分は何をするのか」
を職員が理解した状態を作る。
そこから一年を始める方が、その後の訓練につながります。
火災訓練は「出火場所を変える」だけで終わらせない
毎月の避難訓練を考えるとき、
「先月は調理室だったから、今月は保育室から出火にしよう」
と出火場所を変えることがあります。
もちろん、それにも意味があります。
ただ、年間で見るとさらに多くのことを確認できます。
例えば同じ火災訓練でも、
今回は発見・通報を確認する。
次回は初期消火と避難開始の連携を確認する。
次は避難経路を一つ使えないことにする。
さらに次は、園長不在で誰が判断するかを見る。
というように進められます。
火災という一つの災害でも、
確認できることはたくさんあります。
保育園の火災対策そのものを確認したい場合は、こちらの記事も参考にしてください。



いつも同じ場所からの出火であれば、場所を変えるだけでも変わりますが、場所を変えるより状況を変える方が効果的な訓練になります。
地震訓練では「すぐ避難する」だけにしない
地震は火災とは動きが異なります。
揺れている最中に無理に移動するのではなく、まず子どもと職員の安全を確保する必要があります。
その後、
- けが人はいないか
- 部屋は安全か
- 避難経路は使えるか
- 園庭へ出るのか
- 建物内で待機するのか
- さらに別の場所へ避難するのか
という判断につながります。
だから地震訓練も、
毎回、揺れた。机の下。園庭へ避難。終了。
にする必要はありません。
ある月は、
揺れている間の安全確保だけを丁寧に確認する。
次の月は、
揺れた後の園内確認と情報共有を見る。
別の月には、
園庭へ避難した後、園舎へ戻れない状況を考える。
年間で分けることができます。
地震直後の確認については、こちらの記事で詳しく整理しています。
地震マニュアルそのものを訓練で見直したい場合はこちらです。



一連の流れを覚えることも大事ですが、忙しい日々の訓練を考えると地震の避難の一部分を深掘りする訓練を分けてするのも効果があります。
午睡中、給食中、散歩中。時間帯を変えるだけでも訓練は変わる
災害は、子どもたち全員が保育室にそろっている時間に起きるとは限りません。
- 午睡中
- 給食中
- 登園直後
- 降園前
- 園庭遊び中
- 散歩中
同じ地震でも、発生する時間によって必要な対応は変わります。
例えば午睡中であれば、
- 眠っている乳幼児をどう守るか。
- 職員数は足りるか。
- 避難車までどう移動するか。
- 寝具が避難経路を妨げないか。
昼間とは違う課題が見えてきます。
新しい災害想定を毎回考えなくても、
時間帯を一つ変えるだけで、訓練で確認できることは増えます。


水害は「避難する訓練」だけではなく、避難する前の判断を確認する
火災や地震と、水害では大きく違う点があります。
大雨や台風は、ある程度早い段階から情報を得られる場合があります。
つまり、
危険になってから逃げるのではなく、危険になる前に判断すること
が重要になります。
年間計画に水害訓練を入れるのであれば、
- 警報や避難情報を誰が確認するか。
- 園周辺の道路状況をどう確認するか。
- 保護者へいつ連絡するか。
- 早めのお迎えを依頼するのか。
- すでに道路が危険になった場合はどうするのか。
- 園外へ避難するのか、建物内で安全を確保するのか。
といった判断も確認したいところです。
単に、
「水害なので二階へ上がりました」
だけで終わらせない。
避難を決める前の情報収集から訓練する。
これも年間計画に入れられます。
引き渡し訓練は「保護者が予定どおり来る」だけにしない
地震など大きな災害が起きれば、保護者への引き渡しが必要になる場合があります。
しかし、本当の災害では、
保護者がすぐ迎えに来られるとは限りません。
道路が通れない。
電車が止まる。
勤務先から帰れない。
電話がつながらない。
両親以外が迎えに来る。
避難先で引き渡す。
さまざまなことが考えられます。
だから引き渡し訓練も、
「○時に保護者が来て、名簿で確認して引き渡す」
だけではなく、
予定どおりに来られない状況も年間のどこかで考えておく。
それによって、
- 連絡方法
- 引き渡す人の確認
- 待機方法
- 避難先での引き渡し
などの課題が見えてきます。



引き渡し訓練は保護者を巻き込むために、効果的な訓練が非常に難しく、名目上やっているのが多いです…その中でも何ができるかを考えることも大切になってきます。
「園長がいる前提」だけの年間計画にしない
避難訓練では、園長や主任が全体を指揮する形になっている園も多いと思います。
しかし災害は、
- 園長が外出しているとき
- 主任が休みの日
- 少ない職員で対応している時間
に起きる可能性もあります。
年間12回のうち一度くらいは、
「今日は園長が不在という想定にする」
だけでも構いません。
そのとき、
誰が判断するのか。
誰が全体をまとめるのか。
職員はその代行者を知っているか。
を確認できます。
これは職員を困らせるためではありません。
責任者が一人いなくても、子どもを守れる体制になっているかを見るためです。



自分が判断しなければいけない経験すると、次からの訓練への意識が変わる人も少なくありません。
訓練の記録を、次の月の年間計画へ戻す
年間計画を本当に生かすために必要なのが、訓練記録です。
例えば8月の午睡中訓練で、
「避難車を準備する職員が決まっておらず時間がかかった」
と分かった。
この課題を記録して終わりにしない。
9月や10月の訓練で、
避難車の準備と役割分担をもう一度確認する。
これが大切です。
年間計画と訓練記録は別々の書類ではありません。
記録で分かったことを、次の計画へ戻すためのものです。
避難訓練記録の書き方については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
→ 保育園の避難訓練記録には何を書く?できなかったことを次の安全につなげる方法


安全計画と避難訓練年間計画を別々にしない
保育園や認定こども園では、安全計画を策定し、それに基づいて研修や訓練などを実施していくことが求められています。
ここでも、
安全計画
避難訓練年間計画
研修計画
点検
がすべて別々に動いてしまうと、職員の負担ばかり増えてしまいます。
例えば安全計画で、
「地震時の安全確保を確認する」
と設定しているのであれば、その確認を避難訓練に入れる。
訓練で、
「棚の固定に不安がある」
と分かったのであれば、安全点検へ戻す。
研修で、
「二次避難の判断が分からない」
という声が出たのであれば、次の訓練テーマにする。
このように、
点検・研修・訓練・記録をつなげる。
新しい業務を増やすより、今すでに行っている安全活動をつなぐ方が、実際の安全につながります。
安全計画の運用についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
→ 保育園の安全計画はどう運用する?今ある点検・研修・訓練を命を守る取組につなぐ方法
毎月の避難訓練を考える担当者だけに負担を集中させない
保育園では、毎月訓練を実施するからこそ、
「今月の想定を考えないと」
「記録も作らないと」
「去年と違う内容にしないと」
と、担当者の負担が大きくなることがあります。
毎月ゼロから新しい訓練を作る必要はありません。
前回の訓練を見る。
一つ課題を選ぶ。
それを今回の確認項目にする。
これだけでも訓練になります。
例えば、
前回、人数確認が分かりにくかった。
なら今回は人数確認を重点的に見る。
前回、園長への報告が遅れた。
なら今回は情報伝達を見る。
前回、第二避難経路を確認できなかった。
なら今回はそこを使ってみる。
この方法なら、
訓練内容を考える負担を減らしながら、訓練の質を上げることができます。



毎月ゼロから新しい訓練にまでしなくてもいいということであり、コピペで何も考えずに訓練という意味ではありません。課題を見つめなおせるようにしてください。
年間計画を作って終わりにしないでほしい
- 年度初めに立派な年間計画を作る
- 毎月、予定どおり訓練をする
- 年度末にファイルへ綴じる
それだけでは、子どもを守る力がどこまで上がったのか分かりません。
年間計画で本当に見てほしいのは、
1年間で園に何が残ったか。
です。
4月には誰が避難指示を出すか分からなかった。
でも年度末には複数の職員が判断できるようになった。
第二避難経路を使ったことがなかった。
でも一度実際に通って、問題点を改善した。
保護者への連絡方法が曖昧だった。
でも引き渡し訓練を通じて整理できた。
そうなれば、その一年間の避難訓練には大きな意味があります。
12回やったことより、12回で何が変わったか。
そこを大切にしてほしいと思います。
子どもを守るのは、災害が起きたその場にいる先生たちです
災害が起きたとき、消防が園に到着するより先に、子どものそばにいるのは先生たちです。
大きな揺れが起きた瞬間。
煙に気づいた瞬間。
道路が危険になり始めたとき。
最初に子どもを守る判断をするのは、その場にいる職員です。
だからこそ、毎月の避難訓練を大切にしてほしいと思っています。
先生たちを防災の専門家にしたいというわけでも、訓練を難しくして業務を大変にしたいわけでもありません。
いざというとき、
「あのとき一度やった」
「あのとき話し合った」
「あのとき迷ったから決めておいた」
という経験を一つでも多く残してほしい。
本当の災害で初めて考えるのではなく、
何も起きていない今のうちに、一度考えて、一度動いてほしい。
それが避難訓練の意味だと思っています。
年間計画は、園の防災を一年かけて育てる計画に
避難訓練年間計画を作るとき、
12か月の枠を埋めることから始めないでください。
まず、
今年、この園で何をできるようにしたいか。
を考えてみてください。
- 基本的な避難を確実にしたい。
- 園長不在でも動けるようにしたい。
- 地震後の二次避難まで確認したい。
- 水害時の保護者連絡を整理したい。
- 職員同士の情報共有を改善したい。
園によって違っていいと思います。
その目標に向かって、
- 基本を確認する。
- 一つ条件を変える。
- 課題を記録する。
- 一つ改善する。
- 次の訓練で確認する。
これを一年間続ける。
避難訓練年間計画は、予定表ではありません。
子どもを守れる園へ、一年間でどう近づいていくかを考える計画
にしてください。
避難訓練年間計画を見直したい園へ
ファーストレスキューでは、消防・災害現場での経験をもとに、保育園・認定こども園の防災支援を行っています。
「年間計画はあるけれど、毎年ほとんど同じ」
「毎月の訓練内容を考えるのが負担になっている」
「本当にこの訓練で子どもを守れるのか、一度見てほしい」
「基本訓練から、もう少し実践的な訓練へ進みたい」
「訓練記録を次の改善につなげたい」
という段階からでも構いません。
今行っている訓練を全部変える必要はありません。
今の年間計画を見ながら、一つずつ良くしていくことができます。
実際の避難訓練を元消防士に見てもらいたい
園舎、園児の年齢、職員配置、避難経路などを確認しながら、避難できたかだけではなく、職員の判断や連携、声かけ、人数確認、訓練後の改善まで確認します。
避難訓練の記録・振り返りを毎月続けたい
毎月の避難訓練を記録して終わらせず、振り返りと次の改善につなげる仕組みとして活用できます。
避難訓練だけでなく、園全体の防災を整理したい
マニュアル、避難訓練、備蓄、記録など、園全体の防災を確認できます。
外部講師や避難訓練支援の費用について確認したい
施設機能強化推進費加算では、国の制度上、職員等への防災教育や訓練の実施も取組例として示されています。謝金・委託費も対象経費に含まれますが、実際の利用可否や必要書類は自治体への確認が必要です。
→ 施設機能強化推進費加算は防災研修・避難訓練に使える?講師謝金・委託費の確認方法
何を依頼すればいいか、まだ決まっていない
年間計画を完璧に作ることが目的ではありません。
毎月の避難訓練で一つ気づく。
一つ直す。
そして、次の月にもう一度確かめる。
その積み重ねで十分です。
毎月訓練するからこそ、毎月少しずつ強くなれる。
子どもたちを守るための12回にしていきましょう。









