企業の防災備蓄は何をどれくらい用意する?従業員・来客を守る防災用品の考え方

企業の防災備蓄というと、水や非常食、防災セットを用意しておけば十分だと思われがちです。

もちろん、何も備えていないよりは良いです。
ただ、実際には「備蓄品はあるけれど、災害時に本当に使える状態になっていない」という会社も少なくありません。

従業員数に対して水や食料が足りない。
来客や外部業者のことを考えていない。
簡易トイレがほとんどない。
ヘルメットや防災セットはあるのに、停電時の明かりや充電手段が足りない。
倉庫の奥や地下に置いていて、いざという時に取り出せない。
備蓄しているのに、現場の社員が何がどこにあるか知らない。

こうした状態は、決して珍しくありません。

防災備蓄で大切なのは、「何かを買ってあるか」ではなく、災害時に、必要な人が、必要な場面で使える状態になっているかです。

しかも企業の場合、守るべき相手は従業員だけとは限りません。
来客、取引先、外部業者、店舗利用者など、その時その場所にいる人を一時的に守らなければならない場面があります。

場合によっては、従業員をすぐに帰宅させるより、会社に留まらせた方が安全なこともあります。
また、会社の規模や立地によっては、地域との関係の中で、トイレ、充電、敷地、物資などの提供を求められる可能性もあります。

この記事では、企業の防災備蓄について、従業員分の水や食料をそろえるだけで終わらせず、来客対応、施設内待機、地域との関係まで含めて、何をどれくらい用意すべきかを整理します。

目次

「備えているつもり」の会社は意外と多い

企業の防災備蓄で最初に言ってしまうと、「備えているつもり」で止まっている会社はかなり多いです。

よくあるのは、こんな状態です。

  • とりあえず防災セットを買って終わっている
  • 何人分あるのか把握していない
  • 水はあるが、食料やトイレが足りない
  • ヘルメットは大量にあるのに、簡易トイレがほとんどない
  • 従業員分しか考えておらず、来客や外部業者が抜けている
  • 1か所にまとめて置いていて、取り出せなくなる可能性がある
  • 消費期限の確認ができていない
  • 備蓄している物を、現場の人が見たことすらない

防災備蓄は、「買って安心する」ことが目的ではありません。

必要な場面で、必要な人に、必要な物が届く状態になっていなければ、備えているとは言えません。

企業の防災備蓄は「従業員分だけ」では足りない

企業の防災備蓄を考えるとき、従業員数だけで計算してしまう会社は多いです。
でも、災害時に社内や施設内にいるのは従業員だけとは限りません。

たとえば、次のような人がその場にいる可能性があります。

対象具体例
従業員正社員、契約社員、パート、アルバイト、派遣社員
来客商談中の取引先、見学者、受付来訪者
外部業者配送業者、工事業者、清掃・警備スタッフ
店舗利用者小売店、商業施設、窓口利用者など
夜勤・宿直者夜間の少人数体制で勤務している人
一時的な滞在者研修参加者、イベント参加者、テナント関係者など

災害時にその人たちを「すぐ帰ってください」と外へ出すなんてことはできないでしょう。
帰らせることが危険な場合もあります。

だから企業の備蓄は、従業員分だけでなく、その時そこにいる人をどこまで守るかという視点で考える必要があります。

帰宅させるか、会社に留めるかを判断する備えが必要

災害時に難しいのが、従業員を帰宅させるのか、会社に留めるのか、別の安全な場所へ移動させるのかという判断です。

大きな地震の直後などは、交通機関が止まり、道路や駅周辺が混雑し、余震や落下物の危険が残っている場合があります。
その状況で一斉に帰宅を始めると、従業員自身が危険に巻き込まれるだけでなく、救急車や消防車などの緊急車両の通行を妨げる可能性もあります。

そのため、次のような場合は、すぐに帰宅させるよりも、会社で待機させる判断が必要になることがあります。

  • 建物の安全が確認できている
  • 火災や浸水など、差し迫った危険がない
  • 交通機関が止まっている
  • 駅や道路が混雑している
  • 夜間や悪天候で移動の危険が高い
  • 余震や落下物の危険が残っている
  • 水、食料、簡易トイレ、明かり、情報収集手段がある
  • 従業員や来客が安全に待機できる場所がある

一方で、どんな場合でも会社に留まればよいわけではありません。

次のような場合は、会社に留まること自体が危険になるため、別の安全な場所への移動や、状況に応じた避難を検討する必要があります。

  • 建物に大きな損傷がある
  • 火災や煙の危険がある
  • 浸水が迫っている
  • 土砂災害や津波の危険区域にある
  • 周辺で有害物質の漏えいや大規模火災が起きている
  • 停電や断水により、長時間の待機が難しい
  • 施設内の安全確認ができていない
  • 待機場所として使えるスペースがない

つまり企業には、災害時に「帰宅させる」「会社で待機させる」「別の安全な場所へ移動する」を、その場の雰囲気ではなく、あらかじめ決めた基準で判断できる備えが必要です。

備蓄は、その判断を支えるためのものです。

会社で待機する可能性があるなら、水、食料、簡易トイレ、毛布、明かり、電源、情報収集手段が必要になります。別の場所へ移動する可能性があるなら、持ち出し品、誘導方法、集合場所、連絡手段も確認しておかなければなりません。

企業の防災備蓄は、単に「帰るまでの一時しのぎ」として置くものではありません。
災害時に、従業員や来客をどう動かすかを判断し、その判断を実行するための備えとして考えることが大切です。

来客やお客さんを留めることもある

企業によっては、災害時に来客やお客さんを一時的に留める判断が必要になることがあります。

たとえば、

  • 受付に来ていた取引先
  • 商談中の来客
  • 店舗にいたお客さん
  • 配送や工事で来ていた外部業者
  • 研修やイベントの参加者

こうした人たちを、外が危険な状況でそのまま帰すわけにはいきません。

このとき必要なのは、ただ「待っていてください」と言うことではありません。

  • どこに待機してもらうか
  • 水をどう配るか
  • トイレをどうするか
  • どのくらい留まってもらう可能性があるか
  • 充電や情報提供をどうするか
  • 誰が説明するか

ここが決まっていないと、現場はかなり混乱します。

特に店舗や集客施設は、「従業員分だけあればいい」という考えでは足りません。
その場にいる人をどう守るかまで含めて考えておく必要があります。

地域貢献まで考える会社もある

これは会社の規模や立地によりますが、災害時に地域との関係が出てくることがあります。

たとえば、

  • 地域の中心にある店舗
  • 駐車場や広い敷地を持つ事業所
  • 近隣住民が集まりやすい施設
  • 地域とのつながりが強い会社

こうした会社では、災害時に

  • トイレを貸してほしい
  • 水を分けてほしい
  • 一時的に敷地を使わせてほしい

といった相談が来る可能性があります。

もちろん、すべての会社が地域住民分まで大量に備蓄する必要があるわけではありません。

でも、自社の従業員分しか考えていないと、いざという時に現場が困るのは事実です。

地域との関係が深い会社なら、次のようなことは事前に考えておいた方が現実的です。

  • どこまで対応するのか
  • 誰が判断するのか
  • 自社分を圧迫しない範囲はどこか
  • 水・トイレ・充電・場所のどれなら提供できるか

社会貢献や地域貢献は大切ですが、気持ちだけで動くと、自社の従業員分まで足りなくなることもあります。

だからこそ、地域対応も「なんとなく」ではなく、備蓄量と提供範囲を決めておくことが必要です。

企業で備えておきたい防災備蓄品リスト

企業で備えておきたい備蓄品は、次のように整理すると分かりやすいです。

分類主な備蓄品考えたいポイント
水・食料保存水、非常食、補助食品従業員だけでなく来客も想定する
トイレ簡易トイレ、凝固剤、処理袋断水時に最初に困りやすい
保温用品毛布、アルミブランケット、寝袋夜間や冬場の待機に必要
明かり懐中電灯、ランタン、ヘッドライト階段、トイレ、フロア移動も想定する
電源モバイルバッテリー、乾電池、ポータブル電源連絡・情報収集に必要
衛生用品マスク、手袋、消毒、ウェットシートけが・感染症・汚れ対応に必要
救急用品救急箱、包帯、ガーゼ、絆創膏応急対応に使う
安全確保用品ヘルメット、軍手、養生テープ、工具類ガラス飛散、転倒物、軽作業に対応
管理用品名簿、備蓄台帳、配布ルール表配る時に混乱しないようにする

ここでありがちなのが、「トイレが足りない」という状態です。

災害時に本当に困るのは、水、トイレ、食料、明かり、情報です。
ヘルメットは分かりやすいので、全員分あるけど、トイレが足りていないというのは少なくありません。
また、女性の従業員が多い場合は、トイレの場所の確保も大切です。
見た目に分かりやすい物ばかり増やして、肝心な物が足りない備蓄になっていないかは、一度見直した方がいいです。

必要量はどう考えるか

備蓄量は、次の考え方を基本にします。

必要量 = 従業員数 + 来客・外部業者などの想定人数

ここでは例として、

従業員50人 + 来客・外部業者10人 = 60人

を想定します。

主要な備蓄量の目安

品目計算式目安
60人 × 3L × 3日540L
食料60人 × 3食 × 3日540食
簡易トイレ60人 × 5回 × 3日900回分
毛布・保温用品60人 × 1枚60枚

水は1人1日3Lが一つの目安です。
食料は1人1日3食、簡易トイレは1人1日5回程度を目安に考えると整理しやすくなります。

備蓄の説明をするとこんなに簡易トイレがいるの?と驚かれることが多く、足りていないところは非常に多いです。

さらに「数字に当てはめただけ」で終わらせないことが大切です。

たとえば、

  • 来客が多い会社か
  • 店舗型かオフィス型か
  • 夜勤があるか
  • 外部業者の出入りが多いか
  • 地域対応まで考えるか

によって、必要量は変わります。

つまり、人数 × 単位 × 日数で考えるのは基本ですが、その会社の実態に合わせて増減させる必要があります。

想定では足りないということは起こりやすいです。

必要ないものを増やすより、足りないものを埋める

企業の備蓄でありがちなのが、目立つものはあるのに、本当に困るものが足りないという状態です。

たとえば、ヘルメットや防災セットはある。
保存水や非常食も一応置いてある。
けれど、実際に確認すると、簡易トイレがほとんどない。
停電時の明かりや充電手段が足りない。
来客や外部業者の分は考えていない。
備蓄品が1か所にまとまっていて、災害時に各フロアへ運べない。
こうしたことは珍しくありません。

特に見落とされやすいのが、暑さ対策です。

防災備蓄というと、毛布やアルミブランケットなど、寒さ対策を思い浮かべる会社も多いと思います。
実際、大きな地震災害は寒い時期に発生した印象が強く、冬の備えは比較的イメージしやすいかもしれません。

ただ、ここ数年の夏は、企業の防災備蓄でも無視できない暑さになっています。
気象庁によると、2024年の夏は東日本で統計開始以降1位タイ、西日本と沖縄・奄美で1位の高温となり、2025年の夏も日本の夏平均気温が統計開始以降1位となるなど、記録的な高温が続いています。

災害時に停電が起きれば、エアコンが使えない可能性があります。
その状態で従業員や来客を社内に待機させるなら、水や食料だけでは足りません。

必要になるのは、たとえば次のような備えです。

  • 経口補水液や塩分補給用品
  • 冷却シートや保冷剤
  • うちわ、冷感タオル、携帯扇風機
  • 空調が止まった場合に待機できる場所の確認
  • ポータブル電源や蓄電池
  • 体調不良者を休ませる場所
  • 暑さ指数や熱中症警戒情報の確認方法

ただし、夏用の防災グッズを特別に大量購入すればよい、という話ではありません。

むしろ、普段から行っている熱中症対策と防災備蓄をつなげる方が現実的です。
日常的に使う経口補水液、塩分補給用品、冷却用品、体温計、休憩場所の運用を、災害時にも使えるように多めに持ち、補充ルールを決めておく。

これなら、普段は熱中症対策として使い、災害時には停電・空調停止時の備えとして活用できます。

企業の防災備蓄は、見た目が整っているかどうかではなく、災害時に本当に困るところを埋められているかで考える必要があります。

特に見直したいのは、次のような項目です。

見直したい項目起きやすい問題
簡易トイレ水や食料より少なく見積もられやすい
暑さ対策停電・空調停止時の待機を想定していない
保温用品夜間や冬場の施設内待機に足りない
電源・充電連絡や情報収集が続かない
来客・外部業者分従業員分だけで計算してしまう
分散配置倉庫にまとめていて各フロアで使えない
配布ルール誰に、いつ、どこまで配るか決まっていない

「何となく防災用品を増やす」のではなく、まずは自社の人数、働き方、来客の有無、建物の構造、地域の災害リスクを見て、足りないところから埋めていくことが大切です。

備蓄品は1か所にまとめない

本社倉庫や総務の部屋にまとめて置いてある会社は多いです。
でも、災害時にはそれが弱点になることがあります。

  • エレベーターが止まる
  • 倉庫の鍵を持つ人がいない
  • 地下倉庫に水がある
  • 他フロアへ運べない
  • 夜勤エリアに何もない

こうした状態では、備蓄があっても実際には使えません。

備蓄品は、1か所にまとめるより、フロア・拠点・用途ごとに分散する方が現実的です。

置き場所置いておきたいもの
各フロア水、非常食、ライト、簡易トイレの一部
受付・来客エリア来客用の水、案内用品、充電手段
休憩室・共有部毛布、衛生用品、配布しやすい備蓄
夜勤エリア最低限の水、食料、ライト、トイレ
上階・別棟エレベーター停止時にも使える備蓄
管理部門備蓄台帳、名簿、配布ルール、連絡資料

浸水リスクも考えて、地下や1階に集中させないことも重要です。

備蓄品だけではなく、配り方と判断も決めておく

備蓄があっても、災害時に

  • 誰に配るのか
  • どこまで配るのか
  • 来客にはどう対応するのか
  • いつ帰宅を案内するのか
  • 会社に留まらせる基準は何か

が決まっていないと、現場はかなり混乱します。

特に、地域貢献や来客対応まで考える会社では、なおさらです。

たとえば、

  • 従業員優先で配るのか
  • 来客分を別に確保するのか
  • 地域住民への提供はどこまでか
  • 提供判断は誰がするのか
  • 不足時の優先順位はどうするのか

このあたりは、備蓄品をそろえるのと同じくらい大切です。

物だけ買っても、ルールがなければ災害時には機能しません。

買って終わりにしないための見直し方

備蓄は、買った時点が完成ではありません。

  • 人数が変わる
  • 拠点が増える
  • 来客数が変わる
  • 夜勤体制が変わる
  • 消費期限が来る
  • 地域との関係が変わる

こうした変化がある以上、定期的な見直しが必要です。

見直しの目安としては、次のようなタイミングが考えやすいです。

  • 年1回の定期見直し
  • 人員増減があった時
  • 拠点移転やレイアウト変更の時
  • 防災訓練の後
  • 消費期限が近い時
  • 来客数や業態が変わった時

日常で使える物は、ローリングストックで回すのも有効です。
ただし、保存水や長期保存食、簡易トイレなどは、別管理した方が分かりやすい場合もあります。

訓練で使わない備蓄は、いざという時も使えない

訓練で一度も使っていない備蓄は、災害時にもスムーズには使えません。

  • どこにあるか知らない
  • 誰が持ち出すか決まっていない
  • 簡易トイレを開けたことがない
  • ライトの電池が切れている
  • 来客をどこに待機させるか決まっていない
  • 配布担当が決まっていない

こうした状態は、現場では本当によくあります。

だからこそ、訓練では次の点を確認しておきたいです。

  • 備蓄品の場所を従業員が知っているか
  • フロアごとに取り出せるか
  • 簡易トイレを実際に使えるか
  • ライトが点灯するか
  • モバイルバッテリーが充電されているか
  • 来客をどこに待機させるか決まっているか
  • 配布ルールが共有されているか
  • 会社に留まる基準と移動する基準が整理されているか

備蓄は、買った時点ではただの物です。
訓練で触れて、使って、足りない部分を見つけて、はじめて意味が出てきます。

まとめ

企業の防災備蓄は、従業員分の水や食料を置くだけでは足りません。

従業員だけでなく、来客、外部業者、店舗利用者など、その時その場所にいる人をどう守るか。
帰らせるのか、会社に留まらせるのか。
避難所へ向かわせるより、自社内に待機させた方が安全ではないか。
地域との関係の中で、どこまで対応するのか。

こうしたことまで考えて、はじめて企業の備えは現実に近づきます。

そして実際には、
備えているつもりでも足りていない会社
必要ないものはあるのに、必要なものが不足している会社
は少なくありません。

だからこそ、一度きちんと見直す価値があります。

防災備蓄は、買うことが目的ではありません。
必要な時に、必要な人を、守れる状態にしておくことが大切です。

防災対策は
ファーストレスキューにおまかせください

ここでは伝えきれない、施設・対象者に合わせた防災対策があります。

防災対策は、建物のつくり、年齢、体制、地域の災害リスクによって必要な対策・備えが変わります。

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よくあるご質問

Q. 企業の防災備蓄は何日分必要ですか?

A. 一般的には最低3日分が一つの目安です。ただし、まずは災害直後に従業員や来客を安全に待機させる前提で考え、そのうえで3日分を基準に見直すと整理しやすくなります。

Q. 水は従業員1人あたりどれくらい必要ですか?

A. 飲料用・調理用として1人1日3Lが一つの目安です。60人を3日分で考えると、60人×3L×3日で540Lになります。

Q. 来客や外部業者の分も備蓄した方がいいですか?

A. はい。企業によっては、災害時に来客や外部業者をすぐ外へ出せない場合があります。従業員分だけでなく、その場にいる可能性のある人も一定数想定しておく方が現実的です。

Q. 従業員を避難所へ行かせるより、会社に留まらせた方がいいこともありますか?

A. あります。建物の安全が確認できていて、水、食料、トイレ、情報収集手段がある場合は、無理に外へ出るより会社内で待機した方が安全な場合があります。ただし、建物損傷や火災、浸水などの危険がある場合は別です。

Q. 備蓄品はどこに置くのがよいですか?

A. 1か所にまとめすぎず、フロアごと、来客エリアごと、夜勤エリアごとなど、使う場面に合わせて分散配置するのが基本です。浸水リスクがある場合は地下や1階に集中させないことも重要です。

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