保育園や認定こども園で避難訓練を行った後、
「訓練記録には何を書けばよいのか」
「毎月、同じような内容になってしまう」
「実施日時と参加人数を書いて終わっている」
ということはないでしょうか。
避難訓練記録には、実施日時、災害の想定、参加人数、避難場所など、後から訓練内容を確認するための基本情報が必要です。
しかし、避難訓練記録の役割は、訓練を実施した証拠を残すことだけではありません。
本当に残したいのは、
- どこで判断に迷ったのか
- 何が予定どおりにできなかったのか
- 想定と違ったことは何か
- 偶然うまくいったことはなかったか
- 次回までに何を変えるのか
- 次の訓練で何を確かめるのか
という、次の安全につながる情報です。
避難訓練は、決められた流れをきれいにこなすための発表会ではありません。
災害が起きる前に、できないことや判断に迷うことを見つけるために行うものです。
この記事では、保育園の避難訓練記録に残したい基本項目と、訓練で見つかった課題を次回へつなげるための記録方法について、消防現場での経験も交えて解説します。
現実の災害は、訓練どおりにはいかない
私は岡山市消防局で15年間、火災や救助の現場に携わってきました。
消防士として、火災を想定した訓練も繰り返し行ってきました。
しかし、実際の火災現場が、訓練のシナリオどおりに進むことはありません。
建物の構造、火や煙の広がり方、逃げ遅れた人の有無、使える出入口、消防設備の状態、現場で得られる情報は、毎回異なります。
想定していた場所から進入できない。
必要な情報が集まらない。
想定していなかった場所に危険がある。
別の対応を同時に求められる。
現実の火災では、その場の状況を確認し、判断し、必要に応じて対応を変えなければなりません。
それでは、現実が訓練どおりに進まないのであれば、訓練には意味がないのでしょうか?
もちろん、そうではありません。
訓練は、実際の災害とまったく同じ状況を再現するために行うものではありません。
- 情報を確認する
- 役割を分担する
- 必要な相手へ伝える
- 資機材を使う
- 状況に応じて判断する
- 予定どおりに進まないときに考える
といった基本を、実際に動きながら経験するために行います。
これは、保育園の避難訓練でも同じです。
実際の災害では、園長や主任が不在かもしれません。
いつもの避難口が使えないかもしれません。
泣いて動けない子どもや、けがをした子どもがいるかもしれません。
通報、初期消火、避難誘導、人数確認を、限られた職員で同時に行わなければならないかもしれません。
現実は訓練どおりにはいきません。
しかし、訓練で一度も行っていないことを、災害時の混乱の中で突然行うのは、さらに難しいと考える必要があります。

現実は訓練どおりにはいきません。炎の熱気や煙だってあるかもしれません。だからこそ、訓練で迷い、考え、できないことに気づく経験が必要です。


避難訓練は、うまくこなすことが目的ではない
避難訓練では、予定した流れを止めずに進めることが優先される場合があります。
職員も子どももスムーズに避難し、予定時間内に集合できれば、
「今回の訓練も問題なく終了しました」
と記録したくなるかもしれません。
しかし、訓練が予定どおりに終わったことと、実際の災害に対応できることは同じではありません。
いつもと同じ時間帯に、同じ場所から出火し、同じ職員が、同じ避難経路を使う訓練であれば、回数を重ねるほど動きはスムーズになります。
基本的な動きを繰り返すことも必要です。
ただし、スムーズに終わることだけを重視すると、
- なぜその避難経路を選んだのか
- その出口が使えない場合はどうするのか
- 園長や主任が不在でも判断できるのか
- 職員が一人少なくても同じ役割分担でよいのか
- 本当に全員へ情報が伝わっていたのか
- 偶然近くにいた職員が対応していなければどうなったのか
といった点を見落とすことがあります。
訓練中に、
- 避難に時間がかかった
- 人数がすぐに合わなかった
- 誰が通報するか迷った
- 避難車をすぐに出せなかった
- 持ち出し品を忘れた
- 職員の役割が重なった
ということがあっても、それだけで訓練が失敗だったとはいえません。
本番の災害が起きる前に、できないことが分かったからです。



訓練でできなかったことは、失敗ではありません。本番の前に見つけることができた、改善すべき安全情報です。
反対に、何も問題が見つからない訓練が続く場合は、本当に問題がないのか、問題が見える訓練になっていないのかを考える必要があります。


保育園の避難訓練記録に書く基本項目
保育所では、避難および消火に対する訓練を少なくとも毎月1回実施することが基準上求められています。
また、安全計画を職員へ周知し、安全計画に基づく研修・訓練を定期的に実施するとともに、計画を定期的に見直すことも示されています。
園や自治体で使用している訓練記録の様式がある場合は、まずその項目に沿って記録します。
そのうえで、後から訓練の条件と結果を確認できるよう、次の基本項目を残しておくとよいでしょう。
| 記録項目 | 主な内容 |
|---|---|
| 実施日時 | 訓練を行った日、開始・終了時刻 |
| 災害の想定 | 火災、地震、水害など |
| 発生場所・状況 | 調理室から出火、地震後に火災発生など |
| 参加者 | 園児数、職員数、欠席者、見学者 |
| 園児の状況 | 午睡中、給食中、合同保育中など |
| 職員配置 | 園長、主任、担任、調理員などの配置 |
| 役割分担 | 指揮、通報、初期消火、避難誘導、人数確認 |
| 避難経路・避難場所 | 使用した出口、経路、集合場所 |
| 訓練内容 | 通報、初期消火、避難、人数確認など |
| 使用した物品 | 避難車、誘導ロープ、名簿、持ち出し品など |
| 所要時間 | 覚知、避難開始、集合、人数確認までの時間 |
| 実施結果 | 実際の動き、確認できたこと、発生した課題 |
これらは、訓練を実施した事実を残すためだけのものではありません。
後から、
「どのような条件で訓練したのか」
「前回と何が違ったのか」
「同じ課題が続いていないか」
を確認するために必要です。
すべてを長い文章で書く必要はありません。
毎回変わらない内容や、選択できる基本情報は、あらかじめ様式へ入れたり、チェック式にしたりできます。
重要なのは、後から訓練の条件を正確に確認できることです。
避難訓練で確認したい基本的な動きについては、次の記事でも整理しています。
保育園の避難訓練でまず確認したい基本ポイント
https://firstrescue.co.jp/2026/05/12/nursery-evacuation-drill-checkpoints/


本当に記録してほしいのは「想定との違い」
基本項目を記録したうえで、本当に時間を使ってほしいのは、訓練中に起きた想定との違いです。
判断に迷ったこと
- いつ避難を開始するか迷った
- 初期消火を続けるか、避難を優先するか迷った
- 園庭と園外のどちらへ避難するか判断できなかった
- 園長不在時に誰が最終判断するか分からなかった
予定どおりにできなかったこと
- 119番通報で必要な情報をすぐに伝えられなかった
- 避難車を予定時間内に準備できなかった
- 持ち出し品をすべて持ち出せなかった
- 園児と職員の人数をすぐに確定できなかった
- 避難後の報告が指揮者へ届かなかった
想定と違ったこと
- 子どもが放送に驚いて動けなかった
- 誘導ロープを握れない子どもがいた
- 普段使える通路が荷物で狭くなっていた
- 職員が別の対応に入っており、予定した配置にならなかった
- 避難場所では職員の声が聞き取りにくかった
偶然うまくいったこと
- 近くにいた別の職員が対応してくれた
- その日は園児数が少なかった
- 天候がよく、屋外へすぐに移動できた
- 園長と主任が二人とも在園していた
- いつもの避難口が問題なく使えた
訓練記録として、記載するのは難しいかもしれません。
ただ今回うまくいったのは、園の仕組みとしてできたのか。それとも、たまたま条件がよかったのか
というのを確認することで訓練の質はぐっと上がります。
「全員避難できた」という結果だけでは、その途中で何が起きていたのか分かりません。
訓練中に迷ったことや、職員同士で認識が違ったことは、実際の災害時には大きな遅れにつながる可能性があります。
避難完了も大切ですが、その過程が重要です。
「問題なし」「声かけを徹底する」では改善できない
避難訓練記録では、次のような表現が使われることがあります。
- スムーズに避難できた
- 大きな問題はなかった
- 声かけをしっかり行う
- 次回はもっと早く行動する
- 職員間で連携する
- 落ち着いて行動する
これらの表現だけでは、次回に何を変えればよいか分かりません。
記録は、できるだけ具体的にします。
| 抽象的な記録 | 改善につながる記録 |
|---|---|
| 声かけをしっかりする | 0歳児室の避難開始が事務室へ伝わらなかったため、走って伝えに行く |
| 職員間で連携する | 避難誘導と持ち出し担当が重なったため、次回から持ち出し担当を事務職員とする |
| 人数確認に時間がかかった | クラス別の報告を最終的に集計する職員が曖昧だったため、主任へ一本化する |
| 持ち出し品を忘れた | 名簿の保管場所が職員によって異なっていたため、統一する |
| もっと早く避難する | 避難車を出すまでに時間がかかったため、手前に置かれた物を移動する |
| 問題なく終了した | 通常経路では避難できたが、別経路を避難車が通れるかは確認できていない |
良い記録とは、文章が長い記録ではありません。
次に何を変えるかが分かる記録です。
訓練後に必ず残したい3つのこと
避難訓練記録の項目が多く、すべてを詳しく書く時間が取れない場合でも、次の3つは残してほしいと考えています。
1.今回分かったこと
訓練を実際に行ったからこそ分かったことです。
例えば、
- 園長不在時の指揮者が職員に共有されていなかった
- 乳児を避難車へ乗せるまでに想定以上の時間がかかった
- 園庭では放送が聞こえなかった
- 調理員へ避難開始が伝わるのが遅れた
- 人数確認の報告方法がクラスごとに違っていた
などです。
できなかったことだけでなく、想定どおり機能したことも残します。
2.次回までに変えること
訓練で見つかった課題に対して、何を変えるかを具体的に決めます。
- 役割表を修正する
- 名簿の保管場所を変える
- 避難車の前に物を置かない
- 代替避難経路を確認する
- 通報用メモを電話の近くへ置く
- 新しい確認方法を職員会議で共有する
「気をつける」ではなく、環境、役割、手順を変える内容にします。
3.次の訓練で確かめること
改善策を決めただけで終わらせず、次の訓練で機能するかを確認します。
- 新しい人数確認方法で報告できるか
- 代替経路を避難車が通れるか
- 園長不在でも役割分担できるか
- 午睡中でも必要な職員数を確保できるか
- 通報用メモを見ながら必要事項を伝えられるか
この3つが残っていれば、毎月の訓練がつながります。
前回の課題を次回に確認し、その結果からさらに見直すことで、訓練が園の安全管理として積み重なっていきます。
最初は負担に感じるかもしれませんが、継続していくことで意見も出やすく、訓練の質も上がります。


決まった記入の手間を減らし、振り返りに時間を使う
避難訓練記録には、後から確認できるように残しておくべき情報があります。
一方で、記録作業に時間を取られ、職員が本当に考えるべき振り返りの時間がなくなっては意味がありません。
園名、通常の避難場所、クラス名、基本的な役割など、毎回ほとんど変わらない内容を、その都度一から書く必要はありません。
毎回変わらない基本情報は、あらかじめ様式へ入れておく。
災害の種類や訓練内容は、選択式やチェック式にする。
職員からは、長い感想ではなく、気づいたことを短く集める。
そのうえで、訓練担当者や主任が、
- 今回分かったこと
- 次回までに変えること
- 次の訓練で確かめること
を整理します。
記録の手間を減らすことは、振り返りを簡単に済ませることではありません。
決まった情報を書く時間を減らし、本当に考える必要がある部分へ時間を使うための見直しです。
チェック項目を増やしすぎると、すべてにチェックが入ったことが訓練の目的になることがあります。
そのため、基本情報は効率よく記録しながらも、想定との違いや次回への改善は、具体的に残すことが重要です。


避難訓練記録を、次回の訓練設計に使う
避難訓練記録は、実施後に保管して終わる書類ではありません。
次の訓練を考えるための資料です。
前回の訓練で、
- 園長不在時の指揮者が分からなかった
- 人数確認の報告先が統一されていなかった
- 避難車を出すまでに時間がかかった
- 通常の避難口しか確認できなかった
- 調理室や事務室へ避難開始が伝わるのが遅れた
という課題が見つかったのであれば、次回はその課題を確認できる訓練にします。
園長不在時の指揮が課題になった場合は、次の訓練では園長が訓練上不在という想定にする。
避難経路が一つしか確認できていない場合は、いつもの出入口が使えない想定を加える。
人数確認に時間がかかった場合は、新しい報告方法を決め、次の訓練で実際に機能するかを確かめる。
このように、
- 訓練で課題を見つける
- 改善策を決める
- 次回の想定へ入れる
- 実際に改善できたか確認する
という流れをつくることで、毎月の訓練がつながっていきます。
毎回、まったく新しい訓練を考える必要はありません。
前回できなかったことを、次回もう一度確かめるだけでも意味があります。
反対に、前回の記録を確認せず、毎月同じ訓練を繰り返していれば、訓練回数は増えても、園の対応力が高まっているかは分かりません。
消防庁のガイドラインでも、訓練結果を検討し、改善事項を抽出して計画の見直しへ反映する考え方が示されています。



避難訓練記録は、訓練の報告書で2度と見ないではなく、次の訓練の設計図にして欲しいです。
園内で毎月の改善を続ける方法と、外部の視点を入れる方法
毎月の訓練を改善につなげる方法は、一つではありません。
園内で、
- 前回の記録を確認する
- 今回の想定を決める
- 訓練を実施する
- 気づきを集める
- 次回までの改善を決める
という流れを続けられているのであれば、その取組を継続することが大切です。
一方で、
- 毎回の訓練内容を考える負担が大きい
- 過去の課題を次回へ引き継げない
- 振り返りが抽象的になっている
- 同じ訓練を繰り返している
- 記録後の改善状況を確認できていない
という場合は、訓練作成や振り返りを支える仕組みを利用する方法があります。
ファーストレスキューの「ほいくレスキュー」には、避難訓練の作成支援、避難訓練記録、AI消防士による振り返りコメント案、月次レビューなど、園内で訓練の改善を続けるための機能があります。
ほいくレスキュー
https://firstrescue.co.jp/lp/hoiku-rescue/
また、園長や主任も避難誘導や人数確認に参加するため、訓練中の園全体を客観的に見ることが難しい場合があります。
- 情報が全職員へ伝わっていたか
- 人数確認がどこで止まったか
- 職員配置に無理がなかったか
- 避難車や誘導方法が園児の状況に合っていたか
- 偶然うまくいった対応がなかったか
を園内だけで確認しにくい場合は、外部の専門家に現地訓練を見てもらう方法もあります。
外部支援の目的も、訓練をきれいに成功させることではありません。
園内では気づきにくい課題を見つけ、次の訓練や日常の安全管理へつなげることです。
保育園の避難訓練サポート
https://firstrescue.co.jp/lp/drill/
どちらの支援も、すべての園に必要なわけではありません。
園内で継続できる部分は園内で行い、負担が大きい部分や客観的な確認が必要な部分に外部支援を使うという考え方で十分です。
できなかったことを、次の安全に変える
保育園の避難訓練記録には、実施日時、災害想定、参加人数、職員配置、避難経路、実施内容などの基本情報を残します。
しかし、本当に重要なのは、その先です。
- 判断に迷ったこと
- 予定どおりにできなかったこと
- 想定と違ったこと
- 偶然うまくいったこと
- 次回までに変えること
- 次の訓練で確かめること
を記録し、次の訓練へつなげる必要があります。
避難訓練は、職員や子どもが決められた流れを上手にこなすための発表会ではありません。
災害が起きる前に、できないことや判断に迷うことを見つけるための機会です。
現実の災害は、訓練のシナリオどおりには進みません。
それでも、訓練で一度も行っていないことを、災害時に突然行うのは困難です。
だからこそ、毎月の訓練を「実施しました」で終わらせず、一回ごとの気づきを次へ残す必要があります。



訓練はうまくできることが大切ではありません。できなかったことを次の安全に変える。それが、避難訓練記録の本当の役割です。
ファーストレスキューでは、保育園・こども園の状況に合わせた避難訓練支援や、園内で毎月の訓練作成・記録・振り返りを続けるための安全管理支援を行っています。
保育園・こども園向け防災支援
https://firstrescue.co.jp/nursery/
防災相談・お問い合わせ
https://firstrescue.co.jp/contact/









