自治会・町内会の防災訓練を毎年同じで終わらせない。地域で本当に助け合える訓練へ

毎年、防災訓練を行っている。
消火器の使い方を確認する。
起震車を体験する。
炊き出しをする。
消防署の話を聞く。

どれも大切な防災訓練です。

地域の人が集まり、防災について考える機会を作ることにも大きな意味があります。

ただ、何年も同じ訓練を続けている地域では、一度考えてみてほしいことがあります。

もし今日、この地域で本当に大きな災害が起きたら、地域の人たちは何から動くでしょうか。

防災倉庫の鍵は誰が持っているのか。
安否確認は誰が始めるのか。
集めた情報はどこへ持っていくのか。
発電機は誰が使えるのか。
簡易トイレは組み立てられるのか。
高齢者や支援が必要な人をどう確認するのか。
避難所が開くまで、誰が何をするのか。

こうしたことは、資料に書いてあってもできるとは限りません。

実際に一度やってみることで、初めて見えることがあります。

消防士として災害現場に立ってきて、すごく悔しく感じてたことですが、大きな災害になれば、消防や行政ですぐに地域のすべてを確認することはできません。

だからこそ、地域の防災には意味があります。

自治会や町内会の皆さんが消防士のような活動をしなくてはいけないということではありません。

でも、

自分の安全を守ったうえで、自分たちの地域でできることを一つでも増やしてほしい。

そのために、防災訓練を使ってほしいと思っています。

目次

自治会の防災訓練は、何のためにするのか

自治会・町内会の防災訓練というと、

「今年は何をやろう」

から考えることが多いと思います。

消火器。
AED。
炊き出し。
起震車。
防災講話。
簡易トイレ。

こうしたメニューを決めていく。

もちろん、大切なことです。

ただ、それに加えてもう一つ考えてほしいと思っています。

それは今回の訓練で、地域の何を確認するのかということです。

例えば、

  • 防災倉庫を実際に使えるか
  • 安否確認の流れを確認する
  • 簡易トイレを組み立てる
  • 情報を集約する場所を確認する
  • 夜間を想定して照明を使ってみる
  • 要配慮者の確認方法を話し合う
  • 避難所へ行くまでの動きを確認する

目的が一つ決まるだけでも、防災訓練は変わります。

「今年も訓練を実施した」

から、

「今年はこれができるようになった」

へ変えられるからです。

命を守るために訓練は行うはずです。そのためやったということも大事ですが、できるようになったの方が命を守るにつながります。

避難訓練そのものが目的になってしまう「形骸化」については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

→ 関連記事:避難訓練をやっただけで終わらせない。形骸化を防ぎ、本当に命を守る訓練にするために

毎年同じ防災訓練をすることが悪いわけではない

毎年同じ内容だからといって、その訓練に意味がないわけではありません。

消火器は繰り返し触った方がいい。
AEDも一度体験しただけですべて覚えられるものでもありません。
新しく地域に入ってくる人もいるでしょう。
役員も変わるのではないでしょうか。

何度も基本を確認することには意味があります。

問題は、

何年間続けても、地域でできることが増えていかないことです。

昨年も消火器。
今年も消火器。
来年も同じ消火器。

その間、防災倉庫の鍵を持っている人が一人しかいない。
発電機は誰も動かしたことがない。
安否確認の方法は決まっていない。
簡易トイレは箱に入ったまま。
避難所で誰が何をするのか分からない。

もしそうであれば、訓練の内容を少し変える時期かもしれません。

地域防災全体の現在地を確認したい場合は、こちらの記事で3段階に整理しています。

→ 関連記事:自治会・町内会の防災レベルを見極める〜参加者を増やし、地域で動ける備えにする考え方〜

防災倉庫を「見る」だけではなく、実際に開けてみる

自治会や町内会には、防災倉庫を設置している地域も多いと思います。

中には、

  • 発電機
  • 投光器
  • 簡易トイレ
  • ブルーシート
  • 担架
  • 救助資機材
  • ヘルメット
  • 拡声器

など、さまざまな物が入っています。

しかし、本当に重要なのは、

防災倉庫があることではなく、災害時に使えることです。

一度、訓練で実際にやってみてください。

「では防災倉庫を開けましょう」

となったとき、

鍵はどこにあるでしょうか。
鍵を持っている人は今日来ているでしょうか。
倉庫の前に物が置かれていないでしょうか。
必要な物をすぐ見つけられるでしょうか。
重い発電機を運べるでしょうか。
燃料はあるでしょうか。
使い方を知っている人は何人いるでしょうか。

訓練で開けてみるだけでも、多くのことが見えてきます。

そして、その気づきこそが訓練の成果です。

中に何が入ってるか見たことありません。ということを多く聞きます。それどころかどこにあるかも知らない人も多いです。中を見る。使ってみるを訓練でしてみてください。

自治会・町内会の備蓄や、防災倉庫に何を備えるべきかについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

→ 関連記事:自治会・町内会の防災備蓄は何を用意する?地域で考える防災用品と必要量

安否確認は「家を全部回る訓練」ではありません

地域防災でよく話題になるのが安否確認です。

災害が起きたら、

「地域のみんなが無事か確認しよう」

という考え方は大切です。

ただし、ここで絶対に忘れてはいけないことがあります。

安否確認のために、自分が危険な場所へ行かないことです。

大雨で道路が冠水している。
土砂災害の危険が高まっている。
地震後に瓦やブロック塀が落ちそうになっている。
余震が続いている。

そのような状況で、

「担当だから」

と全戸を回るのは危険です。

活動する人自身の命を危険を顧みず行動していては被害は拡大します。

安否確認には、

  • 電話
  • LINEなどの連絡手段
  • 家族への確認
  • 近隣住民からの情報
  • 避難所の名簿
  • 事前に決めた安否表示

など、さまざまな方法があります。

大切なのは、

「誰が家を回るか」ではなく、「どうすれば危険を増やさず情報を集められるか」

を考えることです。

そして訓練では、

誰が情報を集めるのか。
どこへ報告するのか。
情報が重複したらどうするのか。
確認できない人がいた場合どうするのか。

そこまで試してみてください。

安否確認は「確認した後」まで訓練する

例えば訓練で、

A班 10世帯確認
B班 8世帯確認
C班 1世帯確認できず

という情報が集まったとします。

では、その情報を誰に伝えるでしょうか。

自治会長でしょうか。
自主防災組織の本部でしょうか。
避難所でしょうか。

確認できなかった1世帯について、誰が次の判断をするでしょうか。

ここまで考えて初めて、安否確認が地域の対応につながります。

名簿を作ることも大切です。

しかし、

名簿があることと、安否確認ができることは同じではありません。

訓練で情報を一度動かしてみてください。

簡易トイレは、使ってみる

地域の防災訓練で、ぜひ一度取り入れてほしいものの一つが簡易トイレです。

災害時のトイレ問題は、避難生活を考えるうえで非常に重要です。

しかし、

「防災倉庫に簡易トイレが入っているから大丈夫」

で終わっている地域もあります。

  • 実際に箱から出してみる。
  • 組み立てる。
  • どこに設置するか考える。
  • 目隠しはどうするか。
  • 夜間の照明はどうするか。
  • 手洗いや消毒をどうするか。
  • 使用後をどう管理するか。

こうしたことは、実際に組み立ててみると一気に具体的になります。

買った防災用品を、訓練で一度使ってみる。

それだけでも地域防災は大きく変わります。

トイレを備えましょうは広く伝えられるようになりました。だからこそもう一歩先の使えるか。使う場所はどうするかまで考えて訓練してください。

発電機や資機材は「使える人を増やす訓練」にする

発電機を持っている地域もあります。

しかし、

「使えるのは前の自治会長だけ」
「購入したときに一度説明を聞いただけ」

という状態になっていないでしょうか。

地域防災で怖いのは、

知識や経験が特定の一人に集中することです。

役員は交代します。

災害当日にその人が地域にいるとも限りません。

だから訓練では、

去年使った人が今年も使うのではなく、

まだ使ったことがない人にも経験してもらう。

という方法があります。

一人だけができる。

から、

二人できる。

三人できる。

へ。

それだけでも地域の対応力は上がります。

地域の防災訓練で確認したい7つの内容

自治会・町内会の防災訓練を考えるときは、例えば次のように分けると整理しやすくなります。

1.自分自身の安全確保

地域の活動より先に、

まず自分と家族の安全を確保する。

ここを共有します。

自分が被災しているのに、すぐ地域活動へ出ることを前提にしないことも大切です。

2.防災倉庫

  • 鍵を開ける
  • 必要な物を探す
  • 外へ運ぶ
  • 実際に使う

まで行います。

3.安否確認

  • どう確認するか
  • 誰が情報を集めるか
  • どこに集約するか
  • 未確認者をどう扱うか

を試します。

4.情報共有

災害時には、

「○○道路が通れない」

「○丁目で停電している」

「○○さんが避難所へ移動した」

など、さまざまな情報が入ります。

その情報をどこへ集め、どう整理するかを確認します。

5.資機材

発電機、照明、簡易トイレなどを実際に使います。

使える人を少しずつ増やします。

6.要配慮者への対応

高齢者、障がいのある方、乳幼児がいる家庭など、支援が必要になる可能性がある人について、

安全な範囲で地域として何ができるのか

を話し合います。

地域だけですべてを抱えるのではなく、行政や福祉関係者、家族などとの役割も考える必要があります。

7.避難所へつなぐ

地域で集めた情報や、支援が必要な人の情報を、避難所や行政へどうつなぐのか。

ここまで確認できると、単なる「体験イベント」から、実際の災害対応を意識した訓練へ一歩進みます。

一度の訓練ですべてやる必要はありません

ここまで読むと、

「そんなにたくさん自治会ではできない」

と思われるかもしれません。

いつ災害が起こるか分からないから全部やる。それが理想だと思います。

ただ、現実的には難しいです。それに全部やるを継続するのはもっと難しいです。

なので今年は、

防災倉庫を実際に開けて使う。

来年は、

安否確認を試す。

その次は、

簡易トイレと発電機を使う。

さらに次は、

安否情報を避難所までつなぐ。

というように、一つずつ進めればいい。

大切なのは、

継続して行い、地域でできることを増やすことです。

防災訓練に参加する人が少なくても、まず始める

自治会の方からよく聞く悩みの一つが、

「防災訓練をしても人が集まらない」

というものです。

若い人が来ない。
毎回同じ人しか来ない。
高齢化している。
役員だけになってしまう。

これは多くの地域で聞く難しい課題です。

もちろん、参加者は増えた方がいい。

地域全体に防災を広げることも大切です。

ただ、参加者が少ないから、訓練をしても意味がないわけではありません。

10人が参加して、

その10人が防災倉庫を開けられるようになった。
簡易トイレを組み立てられるようになった。
安否確認の流れを知った。

そこから次は、その10人が家族や近所の人に伝えるかもしれません。

最初から地域全員が防災に関心を持つことは簡単ではありません。

だから、

来てくれた人が一つできるようになる訓練にする。

まずそこからでもいいと思っています。

参加者を増やす考え方や、地域の防災レベルに合った進め方については、こちらの記事で詳しく紹介しています。

→ 関連記事:自治会・町内会の防災レベルを見極める〜参加者を増やし、地域で動ける備えにする考え方〜

子どもや家族が参加しやすい訓練も、地域防災には大切

地域防災は、難しい訓練だけをする必要はありません。

防災についてまだ関心が高くない人に、

「安否確認体制を考えましょう」
「要配慮者支援について検討しましょう」

と呼びかけても、参加のハードルが高くなることがあります。

最初は、

  • 防災クイズ
  • 防災迷路
  • 起震車
  • 防災グッズ体験
  • 簡易トイレ体験
  • 炊き出し
  • 親子防災講座

など、参加しやすい内容でもいいと思います。

大切なのは、楽しいイベントだけで終わらせることではありません。

その中で、

「暗いと避難するのは難しい」
「トイレってこんな仕組みなんだ」
「うちにもライトが必要だな」

と、一つでも自分の防災につながれば意味があります。

ファーストレスキューでも、実際に町内会防災訓練で、子どもから大人まで参加できる「まっくらレスキュー迷路」などの体験型防災を実施しています。

→ 活動事例:西七区町内会防災訓練でまっくらレスキュー迷路を実施

防災訓練の最後に「来年何を変えるか」を一つ決める

私は、自治会の防災訓練でぜひやってほしいことがあります。

訓練の最後に、

「今日やってみて、何ができなかったか」

を聞いてください。

例えば、

「防災倉庫の鍵がどこにあるか知らなかった」
「発電機を動かせる人が少なかった」
「安否確認の情報を誰に渡せばいいか分からなかった」
「簡易トイレの設置場所を決めていなかった」
「若い人にも役割を持ってもらった方がいい」

そんな意見が出るかもしれません。

そこで全部を解決しようとするのではなく、その中でも大事なものを決めて、来年までに一つ直す。

そして次の訓練で確認する。

これを続けてください。

役員が変わっても続く防災

自治会や町内会の防災で、もう一つ大きな課題があります。

役員交代です。

非常に防災に詳しい会長がいた。
熱心な防災担当者がいた。

その人がいる数年間は活動が進んだ。

でも役員が変わると、

「去年何をやっていたのか分からない」

となってしまう。

これでは、せっかく積み上げた防災が戻ってしまいます。

だからこそ、訓練で確認したことを、

  • 何をやったか
  • 何ができなかったか
  • 何を改善したか
  • 次に確認することは何か

という形で残してほしいと思います。

完璧なマニュアルでなくても構いません。

次の人が見て、

「ここまではできている。次はこれをやればいい」

と分かる状態にする。

それだけでも違います。

地域防災は、一人の熱意だけでは続きません。

人が変わっても続く仕組みにすることが大切です。

その他にも任期が短くて何もできないという声も聞きます。だからこそ続けられる仕組みが必要です。

地域防災は、消防や行政だけでは完成しない

消防士経験から、地域の人に伝えたいことがあります。

それは災害が大きくなればなるほど、消防や行政にも限界が来ます。

通報が集中する。
道路が通れない。
同時にたくさんの救助要請が入る。

そのとき、

消防車が来るまで何もしない。
行政から連絡が来るまで待つ。

だけではなく、

自分の命を守りながら、地域でできることを一つでも増やしておく。

その意味は大きいと思っています。

だから私は、防災訓練を単なる年間行事にしてほしくありません。

一回の訓練で完璧にならなくてもいい。
人が少なくてもいい。
最初は何をすればいいか分からなくてもいい。

まず一度やってみる。

防災倉庫を開けてみる。
簡易トイレを組み立ててみる。
安否確認をしてみる。
地域の人と話してみる。

そうすると必ず、

「ここは決まっていなかった」
「これはできなかった」
「次はこうした方がいい」

というものが出てきます。

それを一つずつ変えていく。

私は、その積み重ねが、本当の地域防災だと思っています。

そして形骸化せず、意味のある訓練を継続すれば、必要だと思って参加する人は必ず増えます。

自治会・町内会の防災訓練を「参加した」で終わらせない

防災訓練を開催し、たくさんの人が参加してくれた。

それも大きな成果です。

でも、人数だけではなく、

参加した人が何をできるようになったか。

も見てほしいと思います。

防災倉庫を開けられる人が増えた。

発電機を使える人が増えた。

簡易トイレを組み立てられる人が増えた。

安否確認の流れを理解した人が増えた。

そして一人、

「自分の家でも防災を考えてみよう」

と思ってくれた。

その積み重ねが地域を強くしていきます。

防災訓練を、毎年同じ行事で終わらせない。

今年一つ。

来年もう一つ。

地域でできることを増やしていってください。

その一つが、本当の災害が起きたときに、誰かを守る力になります。

成果も大事です。でも忘れないでください。目的は1人でも多くの人が助かるためです。

自治会・町内会の防災訓練を見直したい方へ

ファーストレスキューでは、消防・災害現場での経験をもとに、自治会・町内会・自主防災組織・公民館などを対象とした地域防災支援を行っています。

「毎年同じ防災訓練になっている」
「次に何を訓練すればいいか分からない」
「参加者が固定化している」
「防災倉庫はあるけれど、実際に使えるか不安」
「安否確認や避難所運営まで進めたい
「まず住民に防災へ関心を持ってもらいたい」

とどの段階からでも構いません。

地域ごとに、住民構成・災害リスク・これまでの活動・参加者数・役員体制とできることは違います。

だから、他の自治会とまったく同じ訓練をする必要もありません。

今の地域に必要な一歩から始めればいいと思っています。

地域の防災訓練・防災活動をまとめて相談したい

→ 地域防災・自主防災組織向け支援

まだ内容が決まっていない

→ ファーストレスキューへ相談する

何をすればいいのか分からなくても構いません。

その状態から一緒に考えることもできます。

大切なのは、

地域を少しでも安全にしたいと思ったときに、一歩動くことです。

防災訓練を、

「今年も終わった」

ではなく、

「今年は一つできることが増えた」

と言える時間にしていきましょう。

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この記事を書いた人

岡山市消防局で15年間消防士として勤務し、火災・救助・火災原因調査などに従事。熊本地震、西日本豪雨などの大規模災害対応も経験。現在はファーストレスキュー株式会社代表として、保育園・企業・学校・地域の防災研修、避難訓練、BCP・安全管理支援を行っています。

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