企業の避難訓練を「避難できた」で終わらせない。社員と来客の命を守る、本当に動ける訓練へ

非常ベルが鳴る。
担当者が火災の発生を知らせる。
社員が決められた避難経路を通って屋外へ出る。
点呼をする。

「全員の避難を確認しました」

これで避難訓練は終了。

企業で毎年行われている避難訓練には、このような形も多いのではないでしょうか。

避難経路を確認することも、非常時の役割を確認することも、実際に身体を動かして避難することも大切です。

基本的な訓練を繰り返す意味もあります。

しかし、企業の避難訓練を「建物の外へ出られたから成功」で終わらせていいでしょうか?

本当の災害では、建物から避難した瞬間にすべてが終わるわけではありません。

建物へ戻っていいのか。
負傷者がいたら誰が対応するのか。
来客や取引先の人を誰が確認するのか。
設備を止める必要はないのか。
本社と連絡が取れなければ誰が判断するのか。
従業員を帰宅させるのか。
会社に留めるのか。
事業を続けるのか。
止めるのか。

避難した後にも、判断は次々と続きます。

消防士として災害現場経験から感じてきたのは、災害は用意したシナリオどおりには進まないということです。

だからこそ企業の避難訓練では、決められた経路を覚えるだけではなく、

「その場にいる社員が、自分たちで考え、判断し、動けるか」

まで少しずつ確認してほしいと思っています。

目次

企業の避難訓練は、何のために行うのか

避難訓練を実施するとき、最初に考えてほしいことがあります。

今回の訓練で、何を確認したいのか。

です。

例えば、

  • 非常ベルが聞こえたら社員が動けるか
  • 初期消火と避難誘導の役割が分かっているか
  • 119番通報までの情報伝達ができるか
  • 来客を安全に誘導できるか
  • フロアごとの人数確認ができるか
  • 責任者が不在でも判断できるか
  • 避難後に必要な対応を理解しているか

同じ避難訓練でも、確認したいことによって見るポイントは変わります。

逆に、

「毎年やっているから今年もやる」

だけになってしまうと、訓練そのものが目的になってしまいます。

現場を想定せず、訓練のための訓練では命を守れるとは言えません。

避難訓練の形骸化については、こちらの記事で詳しく解説しています。

→ 避難訓練を「やっただけ」で終わらせない。形骸化を防ぎ、本当に命を守る訓練にするために

毎年同じ避難訓練をすることが悪いわけではない

「毎年同じ訓練だから、もっと変わったことをしなければ」

と思う必要はありません。

基本的な避難訓練を繰り返すことにも意味があります。

会社には新入社員が入ります。
人事異動もあります。
担当者も変わります。
来客や取引先など、その日に施設内にいる人も毎回同じではありません。

基本動作を繰り返して身につけることは重要です。

問題なのは、毎回やってるからできると適当にやってしまうこと、

そして何年訓練を続けても、同じところから先へ進まないことです。

毎回、
火災発生
非常ベル
避難
点呼
終了

だけであれば、一度その先まで考えてみてください。

避難してからが、企業の災害対応の始まりでもある

例えば、大きな地震が発生したとします。

社員と来客を建物の外へ避難させました。

点呼も終わりました。

全員無事です。

ここまでは訓練でも確認しているかもしれません。

では、その後はどうしますか。

社員が、

「スマートフォンを机に置いてきました」

と言ったら。

会社から、

「重要な書類を持ち出してほしい」

と言われたら。

工場で、

「設備を止めないと危険です」

となったら。

誰が建物の安全性を判断するのでしょうか。

誰を戻すのでしょうか。

それとも、誰も戻さないのでしょうか。

地震後の建物への再入場については、こちらの記事で詳しく解説しています。

→ 地震後、会社・店舗・工場に戻っていい?再入場の判断と安全確認7項目

避難場所まで行くことだけを訓練していると、

本当に判断が必要になる場面を一度も経験しないまま、本番を迎える可能性があります。

企業の避難訓練でも少しずつ変えてほしいと思っています。

災害発生時の訓練、BCPは取り組んでる企業も増えています。ただこの間の部分が見過ごされています。

企業の避難訓練で確認したい8つのポイント

企業の避難訓練では、避難時間だけではなく、次のような点を確認してみてください。

1.最初に異常を知った人が動けるか

災害を最初に発見するのが防災担当者とは限りません。

火災であれば、最初に煙や異臭に気づいた社員。
地震であれば、その場にいる社員。
水害であれば、気象情報や道路状況の変化に気づいた社員かもしれません。

最初に気づいた人が、誰に、何を伝えるのか。

ここから災害対応は始まります。

2.誰が避難を判断するのか

訓練では最初から「避難してください」と指示が出ます。

しかし、本番では、

「まだ避難するほどではないのでは」
「もう少し様子を見よう」

という時間があります。

誰が避難開始を決めるのか。
責任者がいない場合はどうするのか。

ここを確認しておくことが重要です。

3.来客まで守れるか

会社にいるのは社員だけとは限りません。

来客。
取引先。
配送業者。
工事業者。

施設によっては、多くの一般利用者がいる場合もあります。

社員だけが避難方法を知っていても、十分ではありません。

誰が来客を誘導するのか。

そこまで訓練で確認しておきましょう。

4.いつもの避難経路が使えなくても動けるか

火災が発生している場所によっては、普段使っている避難経路を使用できないことがあります。

地震で物が倒れたり、ガラスが割れたりして通れない可能性もあります。

いきなり複雑な訓練をする必要はありません。

一度、

「今日はこの階段を使えないことにする」

という条件を加えるだけでも構いません。

誰が別経路を判断するのか。
その変更をどう伝えるのか。
実際に使える経路なのか。

多くのことが見えてきます。

避難経路はたくさんあっても、パニック時は同じところに逃げるということが起きます。誘導できるように訓練しておくことも大切です。

5.人数確認は本当にできるか

訓練の日は参加者が分かっているため、点呼もしやすいと思います。

しかし、実際の会社では、

出張
外出
休暇
テレワーク
来客
早退
別フロアで作業している社員。

など、人の動きがあります。

単に名簿を読み上げるだけではなく、

「今この建物にいるはずの人は誰なのか」

を把握できる仕組みになっているかも確認したいところです。

6.負傷者が出ても対応できるか

災害時に、全員が自力で避難できるとは限りません。

転倒して負傷する。
物が落ちてくる。
体調を崩す。
階段を降りられない人がいる。

そうした場合、

避難誘導を続ける人。
負傷者に対応する人。
119番通報する人。
情報をまとめる人。

役割をどう分けるでしょうか。

負傷者が出た時に、平常心を保つのは難しいです。だからこそ訓練が重要になります。

7.責任者がいなくても動けるか

私は企業防災で、この確認は非常に重要だと思っています。

災害は社長や防災担当者がいる時間に起こるとは限りません。

会議中
出張中
休日
早朝
夜間

責任者が不在の可能性はいくらでもあります。

「○○部長の指示を待つ」

という体制だけでは、その人と連絡が取れなくなった瞬間に対応が止まります。

誰が代わりに判断できるのか。

訓練だからこそ確認できます。

特定の人物しか防災を把握していないということは少なくありません。
その人がいない時に何か起きたらまで考えておかないと被害は拡大してしまいます。

8.避難した後の行動まで決まっているか

最後が特に重要です。

避難後、

  • 建物へ戻るか
  • 帰宅させるか
  • 会社に留めるか
  • 家族への連絡をどうするか
  • 本社や取引先へ誰が連絡するか
  • 業務を止めるか
  • 何を優先して再開するか

こうした判断が始まります。

避難訓練と事業継続は別々のものではありますが、実際の災害では連続して起こります。

一つだけ予定どおりにいかない条件を入れてみる

避難訓練を実践的にしたいからといって、最初から大掛かりな訓練を作る必要はありません。

むしろ最初は

一回の訓練で確認することを欲張り過ぎない方がいい

と思っています。

理想はいつ起こる災害に対して全てを身につけておくですが、現実的にそれは不可能でしょう。
たくさんやって、やったつもりになるより、継続し、しっかりに身につける方がいざという時に役に立ちます。

例えば今回の訓練では、

「責任者が不在」

だけを追加する。

次回は、

「いつもの階段が使えない」

その次は、

「来客が一人いる」

さらに次は、

「避難後に建物へ戻りたい社員がいる」

というように、一つずつ確認する。

そこから始めてください。

重要なのは、アクシデントをたくさん起こして社員を困らせることではありません。

予定と違う状況が起きたとき、組織としてどう判断するのかを確認することです。


地震だけではない。豪雨では「帰宅させる判断」も訓練になる

企業の防災訓練というと、火災や地震を想定することが多いと思います。

しかし、地域によっては水害や台風への対応も重要です。

例えば大雨が続いている日に、

「危ないから早く帰ってください」

と会社が判断することがあります。

早い段階で帰宅させるのであれば、安全確保につながる場合があります。

一方で、道路がすでに冠水していたり、鉄道が止まったりした後に社員を外へ出せば、かえって危険になる可能性があります。

企業として考えるべきなのは、

帰宅させるか、留めるかだけではなく、いつまでなら帰宅させるのか。

です。

豪雨時の判断については、こちらで詳しく解説しています。

→ 大雨のとき従業員を帰宅させる?会社に留める?企業が決めておきたい判断基準

こうしたテーマは、会議室で話し合うだけで訓練できます。

避難訓練からBCP訓練へ

企業防災を一歩進めると、避難訓練だけでは確認できないことが出てきます。

例えば、

「建物が使えなくなったら、どこで仕事をするのか」
「重要業務は何か」
「取引先との連絡をどうするか」
「社員が半分しか出勤できなかったら」
「停電が3日続いたら」

といった問題です。

ここから先は、BCPの領域になります。

ただしBCPも、作っただけでは災害時に使えるか分かりません。

実際の状況を想定して、

「この場合どうする?」

を関係者で話し合う机上訓練が有効です。

→ BCPの机上訓練はどう進める?地震シナリオと実施手順・評価方法

避難訓練で人命を守る初動を確認する。

その先のBCP訓練で事業継続を確認する。

企業防災では、こうした訓練を少しずつつなげていくことが大切です。

企業の防災全体を一度整理したい場合

「避難訓練だけでなく、備蓄やBCP、マニュアルも含めて今の会社がどこまでできているのか分からない」

という場合は、こちらの記事から確認してみてください。

→ 企業の防災レベルを見極める〜訓練・備蓄・BCPを使える備えに変える考え方〜

全部を一度に変える必要はありません。

まず今できていることを確認し、次に必要なことを一つ決める。

まずはそこから始めてください。

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