保育園や認定こども園で、毎月避難訓練を行っていると、
「毎回、同じ流れになっている」
「火災の発生場所を変えるくらいしか思いつかない」
「もう少し実践的にしたいが、職員の負担は増やしたくない」
と感じることがありませんか?
保育所では、避難および消火に対する訓練を少なくとも毎月1回行うことが求められています。
毎月実施するからこそ、訓練を考える担当者の負担が大きくなり、前年や前月と同じ内容を繰り返しやすくなるのは無理もありません。
同じ基本訓練を繰り返すこと自体は悪いわけではありません。
避難時の声かけ、乳幼児の誘導、避難車の準備、人数確認など、基本動作は繰り返すことで身につきますし、新しい職員が入り、園児も成長し、職員配置も変わるため、定期的に基本へ戻ることも必要です。
問題は、何を確かめる訓練なのか分からないまま、毎回同じ流れだけを繰り返すことです。
毎月まったく新しい訓練を作る必要はありません。
基本訓練ができるようになったら、判断が必要になるアクシデントを一つ加える。
さらに職員が慣れてきたら、アクシデントを少し増やしたり、詳しい展開を一般の参加職員に知らせないブラインド訓練へ進んだりする。
このように段階を上げることで、準備の負担を増やしすぎず、実際に命を守るための訓練へ近づけられます。
訓練のレベルを上げるとは、職員を困らせることではありません。
決められた動きを行う訓練から、状況を見て命を守る判断ができる訓練へ進むことです。
この記事では、基本訓練からアクシデント追加訓練、ブラインド訓練へ、安全に段階を上げる方法を解説します。
同じ基本訓練を繰り返すことにも意味がある
避難訓練では、まず基本となる動きを職員間でそろえる必要があります。
例えば、火災訓練であれば、次のような動きです。
- 火災や異常の発生を周囲へ伝える
- 園児を危険から離す
- 119番通報を行う
- 可能な範囲で初期消火を行う
- 避難経路の安全を確認する
- 乳幼児を誘導する
- 園児と職員の人数を確認する
- 指揮者へ状況を報告する
これらの基本が十分に確認できていない段階で、複数のアクシデントを加えても、職員は何が原因で動けなかったのか分からなくなります。
園児の安全を守りながら訓練を進めることも難しくなります。
年度当初、新任職員が加わった時期、職員配置が大きく変わった時期などは、日時、発生場所、役割、避難経路を共有した基本訓練から始めて問題ありません。
同じ訓練が問題なのではなく、
- 前回の課題を確認していない
- 今回の訓練目的が決まっていない
- 問題が起きないように条件を整えすぎている
- 訓練結果が次回に反映されていない
状態のまま繰り返すことが問題です。
基本的な確認項目については、次の記事でも詳しく解説しています。

訓練は3段階で進める
園の避難訓練は、次の3段階で考えると整理しやすくなります。
第1段階 基本訓練
訓練日時、災害の想定、役割分担、避難経路などを職員が把握した状態で、基本動作を確認します。
目的は、職員を試すことではありません。
- 誰が指揮するのか
- 誰が通報するのか
- 誰が乳児を誘導するのか
- 誰が各室を最終確認するのか
- 人数を誰へ報告するのか
など、園として決めた動きが実際に機能するかを確かめます。
第2段階 アクシデント追加訓練
基本訓練へ、予定どおりに進まない条件を一つ加えます。
例えば、
- いつもの避難口が使えない
- 園長が不在
- 職員が一人、別の対応に入っている
- 避難車を一台使えない
- 園庭では放送が聞こえない
- 持ち出し名簿が所定の場所にない
といった条件です。
最初は、アクシデントを一つだけ加えます。
職員が慣れてきたら、園の習熟度や安全面を確認しながら、二つの条件を組み合わせる方法もあります。
ただし、アクシデントは多ければ多いほどよいわけではありません。
第3段階 ブラインド訓練
園長や主任などを除き、訓練の詳しい日時、発生場所、途中の展開などを知らせずに行う訓練です。
普段の状態から、
- 異常に気づけるか
- 初動を開始できるか
- 必要な情報を集められるか
- 誰が指揮するか決められるか
- 役割をその場で調整できるか
を確認します。
ブラインド訓練は、全員が何も知らない状態で突然始める訓練ではありません。
訓練責任者や安全管理を担当する職員は内容を把握し、訓練中止の判断ができる状態にしておく必要があります。
ファーストレスキューの避難訓練サポートでも、基本訓練、アクシデント追加訓練、ブラインド訓練を園の状況に合わせて調整し、ブラインド訓練については、園児への負担、安全面、職員体制、これまでの訓練状況を確認したうえで実施可否を判断しています。

アクシデント追加訓練とは
この記事では、通常の避難訓練に、訓練責任者があらかじめ用意した予定外の条件を加える訓練を「アクシデント追加訓練」と呼びます。
目的は、職員を驚かせたり、失敗させたりすることではなく、予定した流れが使えなくなったときに、
- 誰が状況を確認するか
- 何を優先するか
- 誰が判断するか
- 役割をどう変更するか
- 変更した内容を誰へ伝えるか
を確かめるために行います。
保育園で取り入れやすいアクシデント例
人員に関するアクシデント
| アクシデント | 確認したいこと |
|---|---|
| 園長が訓練上不在 | 代わりに誰が指揮するか |
| 主任が別の対応中 | 現場判断を誰が行うか |
| 担任が一人少ない | 乳幼児の誘導をどう補うか |
| 通報担当者が負傷者役 | 誰が通報を引き継ぐか |
| 非常勤職員が多い時間帯 | 役割が全職員へ伝わっているか |
避難経路や設備に関するアクシデント
| アクシデント | 確認したいこと |
|---|---|
| いつもの避難口が使えない | 代替経路を判断できるか |
| 避難車を一台使えない | 残る避難手段をどう配分するか |
| 通路に通れない場所がある | 乳児を含めて別経路を使えるか |
| 園庭へ避難できない | 次の避難場所を判断できるか |
| 持ち出し品が所定の場所にない | 何を優先して持ち出すか |
情報に関するアクシデント
| アクシデント | 確認したいこと |
|---|---|
| 園庭で放送が聞こえない | 別の伝達方法があるか |
| 出火場所の情報が途中で変わる | 新しい情報を全員へ伝えられるか |
| 園児数と報告人数が合わない | 再確認の役割と手順が決まっているか |
| 電話が使えない想定 | 別の通報・連絡方法があるか |
| 一つのクラスから報告が来ない | 誰が状況を確認しに行くか |
園児の状況に関するアクシデント
- 園児が不安で動けない
- 誘導ロープを握れない園児がいる
- トイレを使用している園児がいる
- 負傷した園児がいる想定
- 配慮が必要な園児への対応が重なる
ただし、実際の園児を意図的に混乱させたり、負傷者役として扱ったりする必要はありません。
カードや口頭で、
「この園児は歩いて避難できない想定です」
と職員へ条件を伝える方法でも十分です。

アクシデントは一つから始める
初めてアクシデント追加訓練を行う場合は、条件を一つだけ加えます。
例えば、
今回は、いつもの避難口が使えないことだけを加える
という形です。
一つに絞れば、訓練後に、
- 代替経路を誰が判断したか
- 変更情報が全職員へ伝わったか
- 避難車が別経路を通れたか
- 園児の誘導にどのような影響があったか
を具体的に確認できます。
アクシデントを複数加えると、より現実的に感じるかもしれません。
しかし、慣れていない段階で条件を重ねすぎると、どこに問題があったのか分からなくなります。
園児の安全管理も難しくなります。
一つのアクシデントに対応できるようになったら、
- 園長不在+通常の出口が使えない
- 職員が一人少ない+負傷者対応が必要
- 人数が合わない+園内電話が使えない
など、二つの条件を組み合わせて行なってみる。
大切なのは、アクシデントの数ではありません。
園として、情報を集め、優先順位を決め、役割を変えられたかです。
ブラインド訓練とは
ブラインド訓練は、一般の参加職員に、訓練の詳しい条件を知らせずに行う訓練です。
通常の訓練では、職員が事前に、
- 何時に始まるか
- どこから出火するか
- 誰が通報するか
- どの経路を使うか
- どこへ集合するか
を把握していることがあります。
これに対しブラインド訓練では、職員が普段の保育を行っている状態から、いきなり訓練が始まります。
確認するのは、
- 異常を知った職員が周囲へ伝えられるか
- 指示を待つだけでなく必要な行動を始められるか
- 園長不在でも判断できるか
- どの避難経路が使えるか判断できるか
- 職員配置に応じて役割を組み替えられるか
- 情報が変わったときに全体へ伝えられるか
といった点です。
ブラインド訓練は、職員に詳しい答えを知らせないことで、普段からの準備と判断を確認する訓練です。
職員を驚かせたり、評価したりするための抜き打ち試験ではありません。
ブラインド訓練で必ず決めておきたい安全管理
ブラインド訓練を行う場合は、訓練そのものの安全管理が必要です。
訓練責任者は全体を把握する
園長、主任、訓練担当者など、一部の管理者は、実施日時、想定、アクシデント、中止条件を把握しまておく必要があります。
全員が何も知らない状態にはしないようにしてください。
訓練を中止する条件を決める
- 園児の体調不良
- 職員数が予定より少ない
- 職員が危険行為を行う
- 実際の事故や緊急対応が発生した
- 天候や園庭の状態が悪い
- 園児が強い不安を示した
場合など、訓練を中止・変更する判断基準を決めておきます。
園児をなるべく怖がらせない
ブラインドにする対象は、主に職員の行動や判断です。
園児を驚かせたり、強い恐怖を与えたりする必要はありませんが、緊迫感はいつもよりあるので、園児によっては怖いと感じる子もいるかもしれません。
ただ、ある程度の緊張感やちょっとした怖さというのは災害時のことを考えると必要です。
園の事情等もあると思いますので、理解を得られる体制をとっておくことも大切です。
職員体制に余裕がある日に行う
新任職員が多い時期、欠勤者が多い日、大きな行事の直前などに、無理に高度な訓練を行う必要はありません。
失敗して学ぶことは大切ですが、基本なくして行なっても、効果は薄いと言えます。
訓練を厳しくすることが目的ではない
アクシデント追加訓練やブラインド訓練では、職員が判断に迷う場面が出てきます。
予定していた動きができないこともあります。
それは、訓練として価値のある結果です。
本当の災害が起きる前に、判断しにくいことや、園の仕組みが機能していない部分を見つけられたからです。
訓練後に、
「なぜできなかったのか」
「もっと早く動くべきだった」
と個人を責めるようなことをしてはいけません。
どんどん失敗しない訓練をしてしまうことになります。
そして問題が起きないように条件を整え、決められたとおりに動くだけの訓練へ戻ってしまいます。
訓練では、個人の注意力だけでなく、
- 役割分担
- 情報共有
- 職員配置
- 避難経路
- 避難用具
- マニュアル
- 意思決定の方法
まで確認します。
ファーストレスキューが保育園向け研修で伝えているのも、訓練を厳しいだけのものにせず、失敗を学びに変え、小さな成功を認め、疑問を話し合える環境をつくることの重要性です。
訓練で迷ったことは、職員の能力不足を示すものではありません。
園として、判断しやすい仕組みに変えるための情報です。
訓練で失敗したことは、実災害では起こりえると記録し、改善していく方法を探すことが重要です。

前回の課題から、次の条件を一つ決める
訓練内容を毎月ゼロから考える必要はありません。
前回の訓練記録から、次に確かめたいことを一つ選んで行いましょう。
例えば、
- 園長不在時の指揮者が分からなかった
→ 次回は園長不在をアクシデントにする - 人数確認に時間がかかった
→ 次回は人数が合わない情報を途中で加える - いつもの避難経路しか確認していない
→ 次回は通常の出口が使えない想定にする - 園庭で放送が聞こえなかった
→ 次回は放送以外の情報伝達を確認する
という進め方です。
訓練記録に残した課題を次の想定へ入れることで、毎月の訓練がつながります。
前回の課題を解決できたら、次の条件へ進むようにしてみましょう。
改善できなければ、同じ条件をもう一度試しても構いません。
毎回異なるアクシデントを加えることより、決めた改善ができるようになったかの方が重要です。
園内で訓練を作る方法と、外部支援を使う方法
園内で基本訓練、アクシデント追加訓練、ブラインド訓練を安全に組み立てられるのであれば、外部支援を利用する必要はありません。
一方で、
- 毎月の訓練想定を考える負担が大きい
- 園に合ったアクシデントが分からない
- どの段階まで訓練レベルを上げてよいか判断できない
- ブラインド訓練の安全管理に不安がある
- 園長や主任も訓練参加者となり、全体を評価できない
という場合は、訓練作成ツールや外部の専門家を利用する方法があります。
園内で毎月の訓練を作成・振り返る
ファーストレスキューの「ほいくレスキュー」では、スタンダードプラン以上で、避難訓練の作成支援、避難訓練記録、AI消防士による振り返りコメント案、月次レビューを利用できます。
元消防士の視点を参考にしながら、園の状況に合う訓練を考え、実施結果を次回へつなげるための機能です。
元消防士に現地で訓練を確認してもらう
ファーストレスキューの避難訓練サポートでは、園の状況に合わせて、基本訓練+講評、アクシデント追加訓練、ブラインド訓練から内容を調整します。
園舎、園児の年齢、職員配置、避難動線を確認し、訓練後は良かった点、見直す点、次回確認したいことを整理します。
すべての園が高度な訓練を行う必要はありません。
現在の訓練で十分に確認できている部分は続け、判断や連携を確かめたい部分だけ、段階的に条件を加えることが大切です。
まとめ|基本を繰り返しながら、判断できる訓練へ進む
保育園の避難訓練では、同じ基本動作を繰り返すことにも意味があります。
問題は、何を確かめるのか決まらないまま、毎回同じ流れだけをこなすことです。
訓練を一歩進めるときは、次の3段階で考えます。
- 基本訓練で役割と基本動作を確認する
- アクシデントを一つ加え、予定どおりに進まないときの判断を確認する
- 園の習熟度に応じて、部分的なブラインド訓練へ進む
最初から難しい訓練を行う必要はありません。
アクシデントは一つから始め、職員が慣れてきたら、園児への負担、安全面、職員体制を確認しながら増やします。
ブラインド訓練も、完全な抜き打ちではなく、開始時刻、発生場所、追加条件のいずれかだけを知らせない方法から始められます。
訓練のレベルを上げる目的は、職員を試すことではありません。
実際の災害では、予定していた条件がそろわないことを前提に、
- 状況を確認する
- 優先順位を決める
- 役割を変更する
- 情報を共有する
- 子どもと職員の命を守る
判断ができる状態をつくることです。

毎回まったく違う訓練を考える必要はありません。基本を繰り返しながら、判断が必要な条件を一つずつ加えることで、訓練は実際に命を守るものへ近づきます。
ファーストレスキューでは、園内で毎月の訓練を作成・振り返るための「ほいくレスキュー」と、元消防士が現地で訓練を確認する避難訓練サポートを提供しています。
園の訓練状況に合う進め方が分からない場合も、現在の訓練内容を確認したうえで整理できます。









